ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

生活保護家庭と「奨学金」

弁護士 尾藤 廣喜






 福島の友人の弁護士からうれしいメールがありました。再審査請求を行っていた事件が認められ、厚生労働大臣が、処分の取り消しをしたというのです。

 事件は、福島市内の30代の女性と高校生の長女の母子家庭が生活保護を利用しているところ、長女の芸術的才能が認められ、市の教育委員会と民間団体から給付型の奨学金を受けることになったのです。ところが、受けとった9万円について、福祉事務所長が全額収入認定し、生活保護費をその額だけ減額してきたというのです。現在の生活保護制度で足りない高校就学の費用を援助してあげたいという善意での奨学金を全て召し上げてしまったのです。

 もっとも、現在の生活保護制度の運用通知では、「自立更生を目的として恵与される金銭のうち当該被保護世帯の自立更生のために当てられる額」については、収入として認定しないという取り扱いがあり、この事件でも収入認定しないことは可能でした。

 お母さんは、この決定について当然不服で審査請求を行いましたが、福島県知事はなんと昨年11月に棄却してしまったのです。

 この段階で弁護団は、「厚生労働大臣への『再審査請求』の道はあるが、結果は期待できないだろう。裁判も同時に起こして司法での解決を求めるべきだ」と考えて両方の道を選びました。

 ところが、今回8月6日付けで、厚生労働大臣は、「当事者への聞き取りをせずに収入として認定したことは違法」として処分を取り消したのです。

 再審査請求については、福祉事務所のメンツを重視して取り消さないとか、長期間放置して結論を出さないなどから、ほとんど機能していないと言われている制度ですが、今回の取り消しは珍しく、その点高く評価したいと思います。

 しかし、根本的には、子どもの貧困の克服がいわれる今、生活保護世帯の子どもの教育の機会均等の保障を図ること、高校生の給付型奨学金については、全て収入認定除外とする制度改正が強く求められています。



びとう・ひろき氏 1970年京都大法学部卒。70年厚生省(当時)入省。75年京都弁護士会に弁護士登録し、生活保護訴訟をはじめ「貧困」問題について全国的な活動を行っている。