ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

日々のあいさつ

僧侶・歌手 柱本めぐみ




 夏の風物詩のひとつ、全国高校野球選手権は今年100年の歴史を刻み、私たちはこの夏もたくさんの感動をいただきました。京都代表、鳥羽高のすばらしい選手宣誓、全力プレーも、いつまでも多くの方々の記憶に残ることでしょう。毎年、この感動は、ただ単に高校生が勝利を目指して戦う姿だけにあるのではなく、目に映るものの向こうにある、「人」をつなぐ強い思いにあることを感じています。

 今夏も、その思いを知ることができた言葉がありました。それは「日々の心得として、ちゃんと相手の目を見て皆さんに挨拶をするようにしています」という、鳥羽高校の野球部員の方の言葉でした。

 ごあいさつをするときや会話をするとき、相手の目を見て話すということは当たり前のはずなのですが、煩雑な社会の中で、そのことが忘れられているのではないかと思うことがあります。礼儀としてだけでなく、向き合って言葉を交わすことで、表情からも相手のこころが感じられますから、人と人がほんとうに理解し合うために、とても大切なことだと思います。

 近年、大抵のことはインターネットで事足りるようになりました。見るのは画面です。日常の買い物にしても、棚のものを手に取り、レジでお金を払うだけのシステムが主流です。今の私たちは、相手の顔を見るどころか、ひと言も話さなくても生活できる環境に身を置いてしまっています。そのような時代だからこそ、きちんと向き合い、こころを通い合わせることのできる会話を常に忘れないでいたいと思うのです。

 余談ですが、風邪がはやると、多くの方がマスクをされますね。感染予防の意味では必要ですが、丁寧にごあいさつされても何方か分からず、戸惑うことがあります。病院でも、顔を知らないお医者さまの治療を受けるという不思議な現象に出遇うこともあります。ごあいさつの時だけでもマスクを外していただくと、笑顔で応えさせていただけると思うのですが、いかがでしょう。



はしらもと・めぐみ氏
京都市生まれ。京都市立芸術大卒。歌手名、藤田めぐみ。クラシックからジャズ、シャンソン、ラテンなど、幅広いジャンルでのライブ、ディナーショーなどのコンサートを展開。また、施設などを訪問して唱歌の心を伝える活動も続けている。同時に浄土真宗本願寺派の住職として寺の法務を執り行っている。