ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

“ 新しい大衆 ” の誕生

ACT―K主宰・精神科医 高木俊介




 あいにくの秋雨前線が居座る曇り空の下、地下鉄を出て国会議事堂に向かう。集会にはまだ早いが、どんどん人の数が増えてくる。  数の力で安全保障法案を衆議院で強行採決し、まともな説明もないまま放言暴言をくり返す安倍内閣に反対の意志を示す「8・31全国100万人大行動!」にやって来たのだ。私は、どこの組織でも集団でもない、市民の一人として、百万人の一人として、京都からひとりで来た。

 空模様はギリギリですが、日本の状況もギリギリです!と第一声があがり、心地よいレゲエのリズムに乗せた抗議が始まる。髪にリボンを結んだ若い女性が拳を挙げてコールをとるのも、ダンスであり音楽に聞こえる。何もかもが流れるように進み、新しい。

 半時間もした頃だろうか、大きな歓声があがった。重装の警備によ?て鉄柵で仕切られていた国会正面の大通りに、思い思いのプラカードを掲げた人の波が行進してきた。集まった膨大な人が歩道から溢(あふ)れ出て、鉄柵の囲いが決壊したのだ。警備の様子が緊迫し、装甲車が国会正面玄関を塞(ふさ)ぐ。主催者の安全を呼びかける声がくり返す。人々の波はゆるゆると、しかし力強く広がり進み、ついに車道のすべてを覆い尽くした。

 その老若男女の中には、障害者も酸素吸入をしながらの方もいた。それらをこの多くの、互いに見知らなかった者どうしの人々が、励まし思いやり、かばいあいながら、この突如として出現した大行進をやり遂げたのだ。だれひとり、倒れることなく。

 こんなデモや集会が、これまでにあっただろうか。激しさや力の誇示はあっても、やさしさと思いやりが力を得ることはなかった。平和と民主主義を求めてきた戦後の歴史は、決して間違ってはいなかった。戦後70年、さまざまな挫折や失敗を経ながらも、自立した主張によって互いに結ばれた、人と人との関係の束が生まれたのだ。

 今、私が目撃したのは、“ 新しい大衆 ” の誕生なのではないか。



たかぎ・しゅんすけ氏
2つの病院で約20年勤務後、2004年、京都市中京区にACT-Kを設立。広島県生まれ。