ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

社会保障のグランドデザイン

弁護士 尾藤 廣喜






 多くの国民の声を無視し、立憲主義に反した「安保関連法」を成立させた後、次は「経済政策最優先」だと称し、安倍内閣は、9月24日「アベノミクス新三本の矢」として、「強い経済」「子育て支援」「社会保障強化」を内容とする経済政策を明らかにしました。

 しかし、その掛け声とは裏腹に、安倍内閣は、医療、介護、年金、生活保護など市民の生活を支える社会保障制度全体を矢継ぎ早に大きく後退させています。

 そして、「骨太方針二〇一五」では、社会保障費を推計で今後5年間で1・9兆円(毎年3800億円)もの削減を行うことを予定しています。

 このため、「子どもの貧困」が深刻化し、「老後破産」や「下流老人」が流行語となり、「女性の貧困」が大きな問題となる状況を招いているのです。厚生労働省の国民生活基礎調査によると、「生活が苦しい」と感じている世帯は62・4%と過去最高になっており、これは、「子どものいる世帯」で67・4%、「高齢者世帯」58・8%となっています。

 このように、「貧困」が深化し、「格差」が広がる中で、国民の生活を支える社会保障制度が、大きく後退している原因としては、消費増税と同時に2012年8月に成立した「社会保障制度改革推進法」が挙げられます。この「推進法」は、掛け声とは反対に、自助、自立を強調して、社会保障費の抑制を謳(うた)っており、憲法25条(生存権)の空洞化を図ったとも言える内容を持つものです。

 日弁連では今、雇用のあり方、公平な税制度のあり方をも含め、プロジェクトチームで「社会保障のグランドデザイン」がどうあるべきかを検討中です。

 くしくも今年のノーベル経済学賞は、「消費や貧困 幸福についての分析」を理由に米国のアンガス・ディートン教授に贈られることになりました。日本でも、今こそ「社会保障制度改革推進法」を廃止し、憲法25条の理念に基づく「社会保障のグランドデザイン」を確立しなければなりません。



びとう・ひろき氏 1970年京都大法学部卒。70年厚生省(当時)入省。75年京都弁護士会に弁護士登録し、生活保護訴訟をはじめ「貧困」問題について全国的な活動を行っている。