ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

ある晴れた朝、突然に

ACT―K主宰・精神科医 高木俊介




 日本は精神病院大国である。全病床の五つに一つが精神科のベッドだ。ダントツ世界一である。自慢してよい? まさか。

 精神障がい者が地域で暮らすための支援は増えず、そのために差別や偏見が解消せず、結局、精神病院に頼るという悪循環である。

 精神障がい者のことは自分とは関係ない、精神病院で平穏に暮らせばよいのではないかと思う人が多いだろう。だが、実は、これはすべての人たち自身の問題だ。誰もが認知症になる可能性があり、十年後には認知症老人八百万人という時代がくる。そして、認知症の人の多くが、幻覚や妄想などの精神症状をもつ。

 変化への適応ができず、身体的にも多くの病気を抱えた高齢者は、認知症になっても住み慣れた暮らしを続けることが大切である。精神病院にはお年寄りのケアをきちんとできる人材も設備もない。諸外国では、認知症の人にむやみに精神科の薬は使わない、精神病院には入れないということが、国全体の方向性だ。

 だが、今年年頭に厚労省が発表した「認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)」は、その動きに逆行している。長期入院になることもやむなしとして、積極的に精神病院を活用しようとしているのだ。最初は、そうではなかったが、政治家からの横やりが入った。最近も政治献金問題で名前の出る議員もその一人で、一族には精神病院の経営者がいる。この動きにそって、精神病院業界の代表は、精神科の病床を減らす必要はないと言う。

 精神障がい者を地域社会から排除してきたので、私たちは精神症状の扱いに不慣れだ。だからいったん認知症になって精神症状がでると、家族も医療者もお手上げなのだ。その結果、認知症になって戸惑う私は、ある晴れた朝、突然に、手足をくくられて精神病院のベッドで目を覚ます。

 他人事ではないというのは、こういうことだ。精神障がい者を受け入れる社会をつくっていけば、この暗い未来は変えられる。今からでも、遅くはない。



たかぎ・しゅんすけ氏
2つの病院で約20年勤務後、2004年、京都市中京区にACT-Kを設立。広島県生まれ。