ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

一生懸命だけど心配

立命館大教授 津止正敏



 夏季休暇を利用してゼミの学生たちと一緒に広島や香川、長野で活動する男性介護者の会を訪ねた。そこで介護する男性たちへのインタビュー調査を行ってきた。介護と仕事の両立困難を訴える人、認知症の妻と暮らしているがこの会に入って「ひとりじゃないんだ」と気持ちが楽になったと語る人、介護費用に苦労している人。叔父、叔母の介護を担う男性もいた。

 香川県高松市の会でのこと。ひととおり自己紹介が終わった頃、オブザーバーで参加していた女性が男性の介護者の特徴について次のように話してくれた。男性の介護者はSOSの発信が苦手で弱音を吐かない、男性は真面目で逃げない、仕事のように介護しようとする、子育ての経験がないので身体にさわる世話が苦手、被介護者を自分と一体のように思う人がいる、というのだ。「男らしい」多くの介護者との交流があったからこそ感じた男性介護者像なのだろう。「一生懸命だけど心配な介護者」という。

 この香川県の会は4年前の2011年4月に発足して、会員は現在10人余りという小さなコミュニティーだ。広島や長野でもそうだったが、同様の会は今、全国に100カ所以上にまで広がっている。この社会が長きにわたってモデル化してきた強くたくましい大黒柱としての男性像というジェンダー規範を、まるでよろいかぶとのように身にまといながら毎日の介護に従事している人たちの集まりだ。それ故「一生懸命だが心配な介護者」にもなるのだが、そこでは自分の介護体験を語り、仲間の声に耳を傾けるというナラティブ・プログラムが圧倒的に支持されている。同じ立場で介護する人の話をじっくり聞き、いろんな介護のカタチを目の当たりにして、よろいやかぶとから解放されるというのだ。手探りの介護生活の中でようやく出会った「ひとりじゃない」という実感にあふれる場だという。介護が孤立に接合されるとき、周囲の「心配」は現実のものとなる。だからこの小さなコミュニティーが輝くのだ。



つどめ・まさとし氏
1953年、鹿児島県生まれ。立命館大学教授。大学院社会学研究科修士課程修了。
京都市社会福祉協議会(地域福祉部長、ボランティア情報センター長)を経て、2001年から現職(立命館大産業社会学部教授)。2009年3月に「男性介護者と支援者の全国ネットワーク」を発足させ、事務局長を務める。著書に『ケアメンを生きる−男性介護者100万人へのエール−』『男性介護者白書―家族介護者支援への提言−』、『ボランティアの臨床社会学―あいまいさに潜む「未来」−』、『子育てサークル共同のチカラ−当事者性と地域福祉の視点から−』など。