ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

くり返すな「残念な歴史」

弁護士 尾藤 廣喜






 福島第1原発事故を受け、当時18歳以下だった県民を対象に実施している甲状腺検査について、福島県はこのほど、2巡目検査で15人が甲状腺がんと確定したと発表した。

 これまで県では、チェルノブイリ原発事故で4、5年後に子どものがんが多発していることから、事故後3年目までの1巡目検査を放射線の影響のない時期の予備調査と位置付けていた。

 だが、1巡目検査でも約36万人に111人の「がんまたはその疑い」のある子どもたちが見つかり、そして今回の検査で新たに15人の子どもたちが甲状腺がんに罹患(りかん)していることが分かった。日本の小児甲状腺がんの患者数は100万人に0〜3人だから今回の発生率は極めて高いことになる。

 しかし、福島県の「検討委員会」は「現時点では原発事故によるものだとは考えにくい」としている。その根拠として@検査精度の向上や治療の必要がないのに陽性とする「過剰診断」があるAチェルノブイリに比べ発生の時期が早すぎるB福島では曝露された放射能が少ない−などをあげている。

 しかし@の検査精度や「過剰診断」論では、あまりにも高い患者の発生率を説明できないA発生時期については事故の形態の違いや当初精度の高い検査機器が使われていなかったことが大きなさをもたらしたと考えられるB甲状腺がんなどの悪性腫瘍は「しきい値(これ以下では発生しないという値)」がなく、少ない線量でも発生することを無視している−など大きな疑問がある。

 私はかつて、「水俣病」京都訴訟の原告代理人を務めていたが、水俣病公式発見後の比較的初期の段階で、地元の小中学生への疫学調査で「しびれ」や「ふらつき」などの健康への影響を把握しながら、「症状が軽い」として調査結果が無視され、水俣病に対する根本対策が見送られたという「残念な歴史」を知っている。福島第1原発事故の被害については、ぜひとも、このような「水俣病の悲劇」を繰り返さないようにしてもらいたい。



びとう・ひろき氏 1970年京都大法学部卒。70年厚生省(当時)入省。75年京都弁護士会に弁護士登録し、生活保護訴訟をはじめ「貧困」問題について全国的な活動を行っている。