ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

お正月

僧侶・歌手 柱本めぐみ




 12月に入りますと、お餅や白みそ、黒豆やごまめに棒鱈(ぼうだら)など、お正月を祝う食材がお店に並びます。年の暮れを感じる品々を眺めながら、ふと、「このごろは、毎日がお正月みたいやね」と言っていた祖母のことばを思い出しました。明治に生まれ育ち、戦中戦後を生き抜いてきた祖母にとって、いつでも欲しいものが手に入り、好きなものが食べられる、物の豊かな生活への、感謝の気持ちであったのかもしれません。

 しかし、考えてみますと、祖母が例えた「お正月」のイメージは、急速に変わりつつあります。以前はほとんどの家が一家総出で年末の大掃除をし、門松やしめ縄を飾り、おせち料理を作り、その慌ただしさの中に緊張感をもって新年を迎え、家族や親族が集まってお正月を祝うというのが習わしでした。それが、生活の形態が変わり、多くの人がおせちを買う時代。年末年始は旅行という方も少なくないと思います。門松もしめ縄もめったに見かけません。「もういくつねると、おしょうがつ」と歌いだされる童謡、『お正月』では『おしょうがつには 凧(たこ)あげて おいばねついてあそびましょう』とありますが、今の子どもさんたちは、おそらく一年中ゲームでしょう。また、今は元旦にもお店が開いていますから、お雑煮やおせちではなく、ファストフードを食べておられる方も見かけます。街を歩いても、いつもの「休日」と変わらない空気です。

 私自身、時代の傾向に逆らわずに生活をしているうちに、古来より伝えられた大切な精神文化である年中行事を、ひとつの歴史に追いやってしまっているように感じることがあります。必ずしも、昔通りにする必要はないかもしれません。しかし、そこにある日本のこころ、あるいは畏敬の念や礼儀というものを埋もれさせないようにすることは、私たちが本当の意味で豊かに生きていく基盤になるのではないかと思います。間もなく年が明けます。いま一度、居住まいを正して新年を迎えたいと思っています。



はしらもと・めぐみ氏
京都市生まれ。京都市立芸術大卒。歌手名、藤田めぐみ。クラシックからジャズ、シャンソン、ラテンなど、幅広いジャンルでのライブ、ディナーショーなどのコンサートを展開。また、施設などを訪問して唱歌の心を伝える活動も続けている。同時に浄土真宗本願寺派の住職として寺の法務を執り行っている。