ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

時のたつのが早い

真宗大谷派僧侶
川村 妙慶



 「ついさっきまでお正月だったのに、もう1月も後半か?」という会話が聞こえてきます。先日もご門徒が「年を取ると時間がたつのが早くて」とおっしゃいました。逆に子どもにとっては大人の10倍くらい時間が長く感じるといいます。この違いは何でしょうか。

 ある本を読んでいると「脳に刺激がないと時間が短く感じられる」と書かれていました。子どもにとっては毎日が新しい発見です。それが脳に刺激されているそうです。しかし、年を重ねると目の前の出来事を新鮮に受け取るどころか、過去の経験によって対処することのほうが多くなるそうです。すると、脳が刺激されることなく、時間が短く感じられるというのです。

 私たちの生活パターンはだいたい決まってきています。すると「また夫のご飯をつくらないといけない」「妻の愚痴をきかねばならない」「どうせ人生はこういうものだ」と決め付けた人生になってしまうのです。しまいには「生きるのは面倒だ」の繰り返しです。

 しかし、今ある出来事はあたりまえのことでしょうか?あたりまえに慣れすぎてはいないでしょうか。

 かくいう私もぼーっと生きていた時代がありました。そんな私に師は国木田独歩の「牛肉と馬鈴薯」を薦めてくれたのです。

 ある年の冬、明治倶楽部の2階に男が6人集まり、人生について語るというシーンからはじまります。1人の男が「私には不思議な願い」があるというのです。それは何かと訪ねると「喫驚(びっくり)したいというのが僕の願いなんです。死の秘密を知りたいという願いではなく、死という事実に驚きたいという願いです!」と。なぜ生死があるのかと理屈で考えるのではなく、今ある「いのちの事実」に感動できる心が時間を大切に生きるということなのでしょう。

 思い通りになれないこの人生を今日もこうして生きている。目の前にこの人がいる。なんでもない、この事実にびっくりできる日々を送りたいものですね。




かわむら みょうけい氏
アナウンサー、正念寺(上京区)坊守。メールで悩み相談受け付け。北九州市出身。46歳。