ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

「くらし支えあい条例」に期待する

弁護士 尾藤 廣喜






 野洲市が、幅広く市民の生活再建を支援する「くらし支えあい条例」案をまとめ、6月の定例市議会にも提案する予定であるという。これは、昨年4月に施行された生活困窮者自立支援法をさらに進めて、法が対象としている経済的困窮者だけでなく、他のさまざまな理由で暮らしに困っている人をも対象とする「支えあい=ともに生きるための条例」である。

 もともと、生活困窮者自立支援制度は生活保護基準の引き下げと一体のものとして構想されており、生活困窮者を生活保護という所得保障抜きで対応する危険性もある制度である。そのうえ、自立のための相談支援事業と住宅確保のための給付金制度は必ず行わなければならない事業(必須事業)とされているものの、就労準備支援事業、子どもの学習支援事業などは、実施してもしなくても良い事業(任意事業)とされている。しかも、制度利用者に制度利用を求める権利がない。だから、自治体にやる気が無ければ、制度自体が機能不全になりかねない。

 しかし、野洲市では、この制度が法制化される前から、あらゆる「暮らしの困難」にワンストップで相談に乗ってきたし、失業や心の病、多重債務などの市民の生活再建に積極的にかかわってきた実績がある。この条例では、@消費者の権利の尊重と消費者の自立支援A生活困窮者等の生活上の課題の解決及び生活再建に資するよう、総合的に支援するB事業者は自己、消費者、社会の三者に寄与する「三方よし経営」を行うC自治会その他の地域住民団体が協力しあうなどの総合施策も盛り込まれている。

 そして、何よりも注目されるのは、「市は、その組織及び機能の全てを挙げて、生活困窮者等の発見に努めるものとする」としている点である。

 日本の社会保障制度運用上の最大の欠点は、手続き的権利が極めて弱いこと。行政が待ちの姿勢では、制度は「画にかいた餅」になりかねない。この条例のめざしているところは、極めて大きい。



びとう・ひろき氏 1970年京都大法学部卒。70年厚生省(当時)入省。75年京都弁護士会に弁護士登録し、生活保護訴訟をはじめ「貧困」問題について全国的な活動を行っている。