ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

救われるとは?

真宗大谷派僧侶
川村 妙慶



 先日、火星にただ一人取り残された宇宙飛行士の物語を描いた映画を見ました。今までに頼りにしていたものが頼りにならなくなるのです。人が生きていくための水と空気がない。会話ができない。食料も底をついてくる。その中でどうやって生きていくのか? 嫌でも現状に向き合わなくてはならなくなるのです。

 彼は植物学の知識があったため,宇宙船に保存していたジャガイモを栽培することを思いつきます。また水をつくるため、電気分解の技術を駆使していくのです。しかし。、いくら科学の知識をかりても、すべてがとんとん拍子にすすむものではありませんでした。挫折の日々です。何度「死」を意識したことでしょう。その中で、なぜ彼は生きることができたのでしょうか? それは二つありました。

 一つは「生活の形を最後まで身につけていた」ということ。人間は極限状態にまで追いやられると、何もする気がおきなくなります。その時の気分のままにしか生きられなくなるのです。たとえどうなっても、いつも通り起きて、今日何をやろうか? と目標をもって動いてみる。そこには生活のリズムがありました。もう一つは「どんなことがあっても生きたい」という願いを持ったことでした。

 親鸞聖人は「現実から退転しないことが往生を得ること」とおっしゃいました。「生」に「往く」と書いて「往生」。どれほどつらくても、今の現状と向き合い、生きたいと願いを持つこと。これが救われる道なのです。

 地球へ生還できた彼は、宇宙飛行士専門学校の講師となり学生にこういいます。

 「物事が悪い方に向かったとする。その時にできるのは、それを運命と受け入れるか、諦めず問題を解決するかしかない。諦めずにそれぞれを十分に乗り越えたとき初めて、家に帰れる。つまり乗り越えられるんだ」と。

 「彼岸」を迎えました。亡き人を思うと同時に、この私がこの身を生きていることに感動し、どんな試練があっても、ご縁だと受け止め生きてまいりましょう。




かわむら みょうけい氏
アナウンサー、正念寺(上京区)坊守。メールで悩み相談受け付け。北九州市出身。46歳。