ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

人と大地、傷と回復

ACT―K主宰・精神科医 高木俊介




 九州で地震が起きたその週末、福祉と医療・現場と政策の新たな縁を結ぶ会に参加した。そこで、レビー小体病の当事者である樋口直美氏とご一緒した。彼女の語る体験は、私たちが認知症に持つ先入見を覆し聴衆に強い印象を与えた。

 私たちが行って当たり前、良いことだと思っている医療や検査が、認知症の人たちにいかにつらい思いをさせているか。突然に鍵のかかる病棟に入れられる恐怖、くり返される記憶力の検査への不安と屈辱…樋口氏は「認知症をめぐる多くの問題は、不適切な医療と、アウェイな環境が作る、人災だ…実は、医療現場では『適切』と考えられているものも、私たちから見ると随分つらく、ストレスのかかるものばかり」だと言う。

 私も登壇したそのシンポでは、やはり認知症のひとつであるピック病の当事者で、介護者同伴で来た中村成信氏も会場から発言した。その中で、私の発言の記憶間違いを指摘される場面もあり、聴衆の爆笑を誘った。この人たちは、人生後半に突然襲った障害を、本人のもつ回復力と周囲の支えで乗り越えてきた。

 同じ会で、さまざまな障害をもちながら社会の一線で活動する人たちが集い、障害者差別解消法について議論された。そこで語られたのは、私たちが意識してない差別、的外れな「合理的配慮」、障害者本人がまだ言葉にできていない困難がいかに多いかということだった。彼らは、今語ることでその言葉を探し、社会に向けて発言することで私たちとともに理解していく道をさぐっているのだ。

 人は病、障害、そして天災に突如として傷つき、その回復には長い時間がかかる。だが、不治の病と言われる認知症の人にも回復に向かう力がある。地震は人にと?ては大きな厄災だが、断層という地球の傷の回復過程でもある。やがて大地は甦(よみがえ)り、そして人は助け合うことを知っている。

 世界は傷つきに満ちている。だが、回復へとつながる幾千の糸もまた、この世に織りなされてあるのだ。



たかぎ・しゅんすけ氏
2つの病院で約20年勤務後、2004年、京都市中京区にACT-Kを設立。広島県生まれ。