ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

熊本の「底力」

弁護士 尾藤 廣喜






 5月17日、震災後初めて熊本を訪れた。

 訪問の直接の目的は、熊本地裁で出された生活保護をめぐる判決についての控訴審対策の打ち合わせにあったが、もちろん、震災について、私たちに何ができるかを知ることも目的としていた。打ち合わせの場となった友人の事務所は、幸い損壊は免れたものの、震災直後は、内部に書類、備品が散乱し、執務もできない状態であった。にもかかわらず、彼は自分のことはさておいて、震災の翌々日から被災者の法律相談を無料で開始していた。しかも、このような姿勢は、熊本県弁護士会あげてのことであるという。会は、本震直後の4月16日段階で、会あげて被災者支援に取り組むことを決定し、余震のつづく中、県内全域での出張法律相談、電話相談に全力を傾注してきたのだ。その内容は、支援金の支給基準、住宅ローンの減免制度、生活保護利用者への義援金の収入認定問題、労働相談、仮設住宅への入居要件の緩和についての周知と国との折衝など震災関連の全問題に及んでいる。

 そして、その中に、かつて京都で20年近く法律事務所を主宰し、その後、「法律の恩恵は平等に受けられるべきだ」との思いで、当時弁護士のいなかった島根県浜田市に「ひまわり基金法律事務所」を開設した國弘正樹さん(69歳)がおられた。彼は、2013年3月に、南阿蘇村の雄大な自然に感動して移住し、弁護士登録を抹消して悠々自適の日々を送っていたが、再登録し、南阿蘇村の被害の現状を見て、被災者の相談にのりながら、村の唯一の弁護士として再建に努めているという。まさに弁護士「魂」ここにありである。

 今回の震災後の県や自治体の対応については、これまでの大震災の経験がほとんど継承されておらず、対応に遅れが多いなど、批判が強いが、弁護士会だけでなく、ボランティアや住民の団結力には、めざましいものがある。私は、熊本の「底力」が、きっと今回の震災被害を克服すると確信している。



びとう・ひろき氏 1970年京都大法学部卒。70年厚生省(当時)入省。75年京都弁護士会に弁護士登録し、生活保護訴訟をはじめ「貧困」問題について全国的な活動を行っている。