ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

やらされ感





 「それを頼むと、住民にやらされ感が出ますから」

 このせりふを、住民の助け合い活動を創り出す任務を負った行政の担当官が言うのなら、良い。助け合い活動は、住民が自発的にやるものであって、言われてしぶしぶやるものではない。ところが、行政が助け合い活動を勧めると、勧められる住民の方は、どうしても上から強いられるような感覚を持ちがちで、やらされ感が出てしまう。だから行政は、強要しているような言い方や態度にならないように、よほど気を付けて勧める必要がある。

 その一方で、このせりふが、助け合い活動、ボランティア活動を広めている中間支援NPОのリーダーから出ることもある。

 それは違うだろうと思ってしまう。

 要支援者などの生活を助け合いで支えるため、一段と助け合い活動を広め、深めようと訴えて、ここ2年以上全国を飛び回っているが、想像していた以上に「やろう」と応じてくれる方々が多い。はじめは、「今まで介護保険の事業者がやってたことを、住民の助け合いでやるなんて無理だな」という反応だった人が、「どうしてそういうことをしようとするのか」を住民の立場から説明すると、すんなり判ってくれる。行政の説明だとそうはいかないことが多いのだろうが、そこはこちらも一住民として本音で話すから、気持ちが通じるのだろう。そこで、「助け合い活動は難しくないし、やりがいがあるよ」と実例をあげると、気持ちが動くのが表情でわかる。そして、「この地域で何か役立つことができれば」という人たちが結構手をあげてくれるのである。

 そこには、やらされ感などない。「私も何かできないかとずっと考えていたのです」という方が、全国どの地域にも(大きな都市部にも!)思いのほかおられるのである。

 「住民のやらされ感」などと言って、民間NPОの人間が腰を引いていたのでは、時代の流れに取り残されてしまうのではなかろうか。



ほった つとむ氏
1934年宮津市生まれ。京都大法学部卒業。東京地検特捜部検事、最高検検事などを経て、91年に法務大臣官房長を最後に退職。現在、ボランティア活動の普及に取り組む。弁護士。著書に「おごるな上司!」「心の復活」「少年魂」など。