ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

僕らが信じられる大人であること

ACT―K主宰・精神科医 高木俊介




 福島の子どもたちに八丈島の大自然の中で夏休みの保養キャンプを。原発震災の翌年から始めた「福八子どもキャンププロジェクト」は今年で5回目。5年間続けるという最初の計画を達成、終了した。最初はまだ小学校の子どもだ?た子が、今年は高校生OBとしてボランティア組に参加。中学生となった子らは、八丈島高校に進学したいと目を輝かせる。それを聞いて、私は八丈島の中学校に行く、という小学生。

 父や母、祖父母が親しんだ福島の海や森は、この子らには入れない、除染してもしても森から吹きつける放射能、虚(むな)しく腐る豊富な山菜やキノコたち。

 この活動を始めた時、私は問題は5年後からだと思ってきた。チェルノブイリの経験を知っていたからだ。地球の大きな生態系をまわって、これから放射能は再び暴れ出す。多くのところで薄まったとしても、別の所では濃縮されて。

 5年間。島で泳ぎ潜り、魚を追?て銛(もり)で突いて食べ、森で岩を登り滝壺(つぼ)に飛び込むことを覚えた子らは、それぞれにたくましく成長し、悩みも抱えた。八丈島への移住を夢見る子にも、家族や社会の壁は厚い。そして、故郷を出ることだけが正しい選択肢ではないことも、知っている。

 テレビもゲームもない島のキャンプに毎年参加してくるこの子らは、島の大自然の中での遊びに魅せられているだけではない。迎えてくれる島の人々の暖かさ(人はこの島を「情け島」と呼ぶ)、頼れるアニキ、おじさんおばさんのボランティア、その人間関係が子どもらを魅了したのだ。

 5年間。私たちの社会ではあの震災も風化しつつある。その裏で、甲状腺癌(がん)が見つかる子どもが増えている。走り回れる大地は、今も奪われている。これから彼らが大人になって、この不条理に気づく。それを乗り越えていく力は、幼い日に経験した信じられる大人との交流であるだろう。

 それが、この5年で生まれた希望の種だ。この種を芽吹かせ育てること、それが今後の課題となった。



たかぎ・しゅんすけ氏
2つの病院で約20年勤務後、2004年、京都市中京区にACT-Kを設立。広島県生まれ。