ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

内弁慶

真宗大谷派僧侶
川村 妙慶



 先日、ご夫婦で営んでいる和食のお店にいきました。お二人共、笑顔で対応してくださいます。私は思わず「ステキなご夫婦ですね」というと、おかみさんが「とんでもない。夫は、内弁慶なのですよ。家では無愛想で、話しかけても放っておいてくれしか言わないのです。妙慶さんに説教してほしいくらいですわ」と。さすがに弁慶さんに説教はできません。

 弁慶は歴史上の人物の中でも「強い人」のイメージですね。この弁慶の名前が由来となって、家では弁慶のように強気でいる人の事を内弁慶と言います。それとは逆に、外では謙虚におとなしく振る舞っているのです。なぜでしょう。それは常に不安だからです。家の中では自分が偉くできても、外に出れば自分よりも優れた人はたくさんいます。真っ向から太刀打ちできない場合は、こちらが謙虚さを出すしかないのです。常に、社会の中で自分の欠点を見せないように緊張してるのです。

 それが家に帰ると、その緊張から解放され、今度は家の中が気になり目につきます。その結果、身内に対して過剰な批判をしてしまうのです。私の元にも「夫(妻、子ども)がきつくあたりすごくつらいです、なぜ外では良い顔をして、私には笑顔を見せてくれないのでしょうか?」という相談メールを多くいただきます。

 こちらが柔軟になろうと優しい言葉をかけても「放っておいてくれ」と突き放す言葉しか言えない。本当は、心の奥底では感謝しているのです。本当は寂しいのに、感情の部分が素直になれず、「放っておいてくれ」と反発するのです。この反発は、寂しさをうめてほしい心の叫びなのです。そんな内弁慶さんにも、弁慶の泣き所があります。それは、「あなたの一番の味方は、この私なのですよ。いつも心配していますよ」という一言。いつも外に対して不安を感じている弁慶さんには、もっとも優しくつきささる言葉ではないでしょうか。


かわむら みょうけい氏
アナウンサー、正念寺(上京区)坊守。メールで悩み相談受け付け。北九州市出身。46歳。