ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

万国ケア博覧会のすすめ

ACT―K主宰・精神科医 高木俊介




 2020年の東京オリンピックの次は、大阪での万国博覧会開催らしい。2025年に誘致したいとの政府の意向である。

 70年の大阪万博を、私は中学校の特別研修で行った。当時は多くの青少年が万博マニアとなり、パビリオンで見る世界に憧れ夢を羽ばたかせた。今の為政者たちはその世代だ。もう一度夢を見たい。経済的な理由ばかりではなさそうだ。

 だが、日本と世界は、半世紀で様変わりした。進歩と調和への夢は、停滞と戦争という現実に打ち破られている。経済成長に明るく輝いていた太陽の塔は、ぼってりと内臓脂肪を蓄えてうつむいているように見える。世界は、少なくとも日本を含む先進国は、急速に年老いたのだ。

 その私たちにとっての大きな課題は、発展ではなく、ケアである。機能の衰えていく高齢者のケア、流動化する不安な社会に働く労働者のケア、数少ない子どもたちが健やかに育つためのケア、障害をもった人のケア…このようなケアの必要に満ちた世界は、人類がはじめて経験するものだ。今は若い国々は、その活力で老いた先進国をケアすることで経済を回すことになる。ケアのグローバル化とは、地球全体でケアしケアされる社会を実現することである。

 一方でケアは、人類が太古から持ち続けてきた資質である。人類はそれぞれの国や民族で、多様なケアの仕方、その制度を発展させてきた。高齢者や障害者のケアでは、国境や民族の壁を越えて、今それぞれのケアの学び会いがはじまったばかりだ。

 世界のさまざまなケアが一堂に集まって、披露しあい、教えあう。そこでは遠い他国で高齢者となった気分で、そのケアを実際に受けてみる。パビリオンのケアホテルに滞在なんてのも、いいな。日本の不便さがわかって、ちょっとがっかりすることもありそうだ。

 万博跡地は、そのまま多様なケアの場となる。そうなれば、太陽の塔も、ぐるり、こっちに顔を向けてくれるかもしれない。



たかぎ・しゅんすけ氏
2つの病院で約20年勤務後、2004年、京都市中京区にACT-Kを設立。広島県生まれ。