ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

変わったこと変わらないこと

立命館大教授 津止正敏



 「いい日、いい日」にかけた11月11日は「介護の日」。各地ではこの日の前後に、介護を主題としたイベントが多彩に開かれる。

 在宅で介護を受ける人が500万人を超え、介護に関わる家族は主たる従たる介護者を含めると多分その数をはるかに超える。直近の就業構造基本調査(総務省)では、介護だけではなく医療関係者も含むが「医療・福祉」の従事者も700万人を超え、いまではこの国の就業者の中で「製造業」「卸売・小売業」に次ぐ第3位に上昇している。前2者が減少著しいのに比べて、次回の調査では逆転するのではないかと思うほど看護・介護の部隊は増え続けている。家族の介護を引き受けるということが家族の中に封印され、介護することされることが恥だとされるような時代があったことなど遠い過去の話のようにも思える。

 半世紀前の新聞記事を見つけた。19681年9月14日の全国紙朝刊の社会面、「長寿嘆く20万人」との見出しで掲載された記事だ。初の全国規模の介護調査結果を報じたものだ。老人人口が年々増える一方で、脳卒中などで常時床に伏している寝たきり老人の問題は深刻化しているが、厚生省はこれらの実態さえつかんでいない、そのため全国社会福祉協議会が全国の民生員を全員動員して寝たきり老人と家族への面接調査を実施した、というのだ。

 その結果、390万人の70歳以上の老人のうち約20万人が寝たきりで暮らし、そのうち8千人が近隣、ヘルパーなど他人の世話を受けているが、特別養護老人ホームのベッド数は全国に4千5百しかない。介護家族は半数が嫁、4人に1人が妻、6人に1人が娘、と「9割以上が婦人の肩にかかっていた」。この調査の4年後の72年に有吉佐和子の「恍惚の人」が刊行され、翌年には映画にもなった。

 50年前のこと。介護者や介護のカタチは随分と変わったが、「老人問題が深刻化している」というフレーズは今も変わらない。介護を巡る光と影。介護の社会化は始まったばかりだ。



つどめ・まさとし氏
1953年、鹿児島県生まれ。立命館大学教授。大学院社会学研究科修士課程修了。
京都市社会福祉協議会(地域福祉部長、ボランティア情報センター長)を経て、2001年から現職(立命館大産業社会学部教授)。2009年3月に「男性介護者と支援者の全国ネットワーク」を発足させ、事務局長を務める。著書に『ケアメンを生きる−男性介護者100万人へのエール−』『男性介護者白書―家族介護者支援への提言−』、『ボランティアの臨床社会学―あいまいさに潜む「未来」−』、『子育てサークル共同のチカラ−当事者性と地域福祉の視点から−』など。