ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

要介護者に対する生活支援





 年金から差し引かれる介護保険料というのが、結構きびしい。一日の暮らしの最大の楽しみ、晩酌の一合を半分に節約しなければならない。

 しかし、介護保険料が上がる分を抑えるために、要介護度の軽い人たちの生活を支えるサービスを切り捨てるとなると、話は別である。それを言い出した財務省筋の言い分は「昔と違って配食も掃除も民間の事業が発達し、誰でも自分のお金で頼めるのだから、自分で頼むのがあるべき姿だろう」ということ。しかしそれは無理である。代金が高いから頼める人はそんなにいない。だから保険でやってもらうことにしたのである。

 そこでその筋から出てきた第二の主張は「調理や掃除などは助け合いでやれるのだから、それでやることにしよう」というもの。しかしこれも無理である。目下、要支援者(要介護の人よりも軽いレベルの人)に対する生活支援を助け合いでやる制度に移行している最中である。2年前からとりかかったが、全国どの市区町村でも、要支援者の生活を支えられるほどの助け合いはまだ出来ていない。助け合いは志でやるものだから、声をかけても一挙に広がるものではないからである。要支援者も支えられないのに要介護者まで支えよというのは時期尚早だろう。

 そこで今厚労省が検討し始めたのが、要介護者の生活を支える事業者に対する報酬の切り下げ。あくまでも介護保険料の上昇に歯止めをかけたいのである。

 その必要性は、保険料を払う立場からはよく判るので、無下(むげ)に反対はできないのであるが、報酬を切り下げるとそこで働く介護人材が逃げ、安い報酬でも働いてくれる素人に近い人が参入してくることになる。それなら、いっそ、熱意のある助け合いの人々にやってもらった方が利用者にとってもよいことになる。

要支援者を支えるため少しずつ広がりつつある助け合いを、そちらが良いと思う要介護者は選べることにしてはどうであろうか。



ほった つとむ氏
1934年宮津市生まれ。京都大法学部卒業。東京地検特捜部検事、最高検検事などを経て、91年に法務大臣官房長を最後に退職。現在、ボランティア活動の普及に取り組む。弁護士。著書に「おごるな上司!」「心の復活」「少年魂」など。