ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

本当の強さとは

真宗大谷派僧侶
川村 妙慶



 今、女子の習い事に、護身術を身につける人が増えているそうです。強くなって自分を守らないといけないというのが理由だそうです。一昔前は、茶道、華道を習う人が多かったものですが、人間関係が希薄化して、物騒な世の中になったという時代の流れでしょうか。

 さて「強くなる」とはどういうことでしょうか? オドオドすることなく、相手を言い負かすぐらいの勇気をもちたい。また、大物になって人から文句を言わせたくないという方もおられるでしょう。しかし、競争に負けず、お金を稼げる事が本当に強いことなのでしょうか。ある方がおっしゃいました。「自殺は心が弱いからだ」「薬に頼るなんて、怠けているからだ」と。まるで、他者の心境を理解しようともせず、「私はまとも」だと裁きの心で人間を量ってしまう。私たちは、どれだけお金持ちで、健康で才能があっても安らかな心で生きていくことはできません。なぜなら、強いものを手に入れた瞬間から、常に競争心の中でおびえるようになるからです。そういう人の心は常に孤独です。実は、強くなりたいと願う心に、弱い自分が潜んでいるのかもしれません。

 私たちは自分の力で生きているのではありません。人間は強いのではなく、弱いのです。そのことがわからないと、弱さから逃げることしか考えられなくなるのです。

 さて、本当に強い人というのは、今の私をそのまま認める心を持った人のことなのでしょう。そして人間に必要な「力」は、他者と共存していける情(心の根)を、人間関係の中で育てることではないでしょうか。相手の気持ちも察していける心を育てないといけません。

 彼岸です。亡き人は、善悪、勝ち負けに振り回され自分を見失った私たちに、お浄土から「どうか、私を尊び、他者を大切に助け合う関係の中で生きてほしい」と願われています。参ってやっている視点から、気がついたら、私たちが仏さまから常に案じられているのですね。


かわむら みょうけい氏
アナウンサー、正念寺(上京区)坊守。メールで悩み相談受け付け。北九州市出身。