ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

「保護なめんな」ジャンパー事件その後

弁護士 尾藤 廣喜






 今年1月、神奈川県小田原市の生活保護担当職員が「保護なめんな」「不正を罰する」などと、利用者を威圧するような言葉をプリントしたジャンパーを着て、10年間にもわたり、各世帯を訪問していたことが明らかになった。

 生活保護利用者の多くは、さまざまなハンディを抱えており、福祉事務所のケースワーカーには、まず、これに寄り添った福祉的な支援が求められている。ところが、この事件は、そうした姿勢に全く反し、生活保護利用者と信頼関係を築くことを行政自ら放棄しているとも言える事件であった。

 小田原市当局は、このような事態を重視、関係者らを厳重注意処分し、謝罪会見するとともに、学識経験者、元ケースワーカー、元生活保護利用当事者らによる「生活保護行政のあり方検討会」を作り、検討を進めてきた。その結果、4月6日に報告書が出されたのである。

 報告書では、@ジャンパー作成のきっかけとなった10年前の生活保護利用者による傷害事件について、市側の対応にもともと問題があったことA市の行政が専門性を欠きB女性職員が少なく、保護の申請から決定までの法定期間を守らず、母子世帯の保護率が極めて低いなど、多くの運用上の問題点があることを指摘している。そして、@当事者アンケートなどの実施A専門家を招いた研修などの強化B職員配置の増加と社会福祉士、精神保健福祉士などの有資格者の採用など具体的な改善提言もなされている。

 報告書の指摘した内容は極めて重大で深刻である。小田原市において、指摘された問題点が着実に改善され、利用当事者と職員の関係が相互の「信頼と尊敬」に変化することをまず求めたい。さらに、今回の問題が、同市だけの問題ではなく、程度の差こそあれ、どこでも発生し、あるいは発生する可能性があるところから、指摘された諸点が、全国の生活保護の現場で「他山の石」として生かされることを切望したい。



びとう・ひろき氏 1970年京都大法学部卒。70年厚生省(当時)入省。75年京都弁護士会に弁護士登録し、生活保護訴訟をはじめ「貧困」問題について全国的な活動を行っている。