ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

北の国からきた未来

ACT―K主宰・精神科医 高木俊介




 これからみんなで一年後の世界に行きます。そこではあなたの生活はうまくいっています。あなたは今どんなことが幸せですか? そんなドラえもんとタイムマシンに乗っているような話し合いの方法がある。「未来語りのダイアローグ」という北欧フィンランド生まれの対話法だ。方法自体は簡単。あなたが今幸せなのはあなたが何をしたからですか? それは(ここにいる)誰と一緒にしましたか? このような問いを、集まった人たちに対して2人のファシリテーターが行う。皆はそれに答えながら、これから誰かと一緒にやるべきことを考えるのだ。

 複雑すぎて先の見通しがきかなくなった現代では、人は多くの分野の専門家とかかわらなくては生きていくのが困難になった。それにもかかわらず、専門家たちはお互いのつながりがなく、すぐに援助は行き詰まる。当事者の希望とくいちがう見当外れの援助を繰り返してしまう。私たちの日本社会でも当てはまるこのような悲劇を乗り越えるために、「未来語りのダイアローグ」は生まれた。

 当事者自身が希望する幸せな未来の様子を援助者たちで共有し、どのようにしてその幸せを実現したのか、その具体的な援助方法を未来から「思い出す」。その過程で、援助者同士の助け合いと、当事者と援助者の絆ができあがっている。この現在に、いつのまにかその連帯ができあがっていることに気づくのだ。

 この方法の開発者の方々を先日フィンランドから招き、京都で一カ月の集中的な研修を行った。一般向け講演会もしたのでご存じの方もいるだろう。当事者との実際のセッションも行って、この方法が本人にとっても満足のいくものであることがわかった。

 来年には、より専門的な研修が全国で行われる予定だ。皆で未来の幸せをイメージして、それを実現した自分たちの行動を「思い出す」。そんな不思議な対話が、どこでも行われている。

 それを想像しただけで目の前に拓(ひら)けてくる未来に、ワクワクする。



たかぎ・しゅんすけ氏
2つの病院で約20年勤務後、2004年、京都市中京区にACT-Kを設立。広島県生まれ。