ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

あいさつの力再び

関西大教授 所 めぐみ




 現在の職場に着任した2年前、うれしく思ったことがあった。マンモス大学ではあるが少し離れたところに一学部だけあるキャンパスでは、まだ私のことを知らない学生さんも学内ですれちがうと「おはようございます」「こんにちは」とあいさつをしてくれた。

 10数年前から大学で働くようになり、気にあいさつをしてくれる学生さんは少なくなかったけれども、こちらからあいさつをしてもあいさつが返ってこないという経験もあった。それだから、学生さんからあいさつされることに新鮮さを感じたのだろう。

 さて私たちの学部では新入生を対象にオリエンテーションキャンプを毎年4月に行っている。1泊2日の間に、個人の力、グループの力、この学部の学生としてのアイデンティティーを形成していく基盤づくりをするのである。

 2日間のさまざまなアクティビティーの最後、教員から、自分たちにとって良い学部にするために、あいさつをお互いにしようということが伝えられた。

 前の晩、引率している教職員で、最近あいさつをしない学生が増えてきているという話が出ていたのである。私自身もその変化に気づいていた。学生さんからあいさつをされないだけでなく、あいさつをしても何も返ってこないことが増えた。そのうち、私自身からあいさつすることも減ってきたように思う。

 しかしキャンプ後、ちょっとしつこいぐらいにあいさつをしている。返してくれる学生さんもいれば、この人誰だ? という表情で固まる人もいる。目を合わせない学生さんもいる。

 返事が返ってこなかった学生さんの顔を私の精いっぱいの笑顔でのぞき込むと、「うっす!」とようやく一声返ってきた。「うっす!」か。まずはここからだ。



ところ・めぐみ氏
1967年生まれ。同志社大文学部社会福祉学専攻卒。関西大人間健康学部教授。専門は地域福祉方法論、福祉教育。