ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

「子ども保険」に異議あり

弁護士 尾藤 廣喜






 日本は「子どもの貧困」大国であると言われてきた。政府発表の「子どもの貧困率」では、平成24年には16・3%と6人に1人が貧困であり、平成28年4月発表の子どもの貧困格差でも、OECD諸国の中でワースト8位になっている。

 そんな中で、小泉進次郎議員を中心とした自民党の若手議員が「子ども保険」の設立を提言し、あっという間に6月9日の「骨太の方針」に、「年内に結論を得る」との内容が盛り込まれた。この制度は、社会保険の保険料を上積み徴収して、これを保育や幼児教育を無償にするために使おうというもので、財政当局は、おおむね好意的な反応であり、マスコミでも批判的な報道はあまり目につかない。

 しかし、「子ども保険」が、本当に有効な子ども対策となり得るかについては、大きな疑問がある。

 第1の疑問は、「社会保険料率を0・1%から0・5%上乗せして徴収する」というシステム自体にある。保険制度では、保険料の負担割合が低所得者で高く、高額所得者で低いという逆累進になっている。平成26年度のデータでは、150万円から200万円の所得階層の社会保険負担率は16・7%と最も高く、5000万円から1億円の所得階層ではわずかに1・6%程度である。このような保険制度の下で同一割合で新たに保険料を徴収することは、貧困層により大きな割合での負担を求めるということになる。

 第2の疑問は、「子ども対策」の主財源を保険料収入に頼れば、財源に枠がはめられ、結果的に給付内容が制限されることになるのではという点。「介護の社会化」の掛け声の下発足した介護保険が、保険料を財源の中心としたために、要支援1、2の方が保険給付の対象から外されるなど給付内容が次々と制限され、利用料負担割合も、1割から2割、さらに3割へとあげられる状況になっていることを忘れてはならない。

 「子ども対策」は、累進制度を強化したうえで、税を財源とすることしかあり得ない。



びとう・ひろき氏 1970年京都大法学部卒。70年厚生省(当時)入省。75年京都弁護士会に弁護士登録し、生活保護訴訟をはじめ「貧困」問題について全国的な活動を行っている。