ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

育まれるこころ

僧侶・歌手 柱本めぐみ




 夕刻の涼風を感じながらふと見上げた窓には、色褪(あ)せた簾(すだれ)がかかっていました。私は毎年、終わりゆく夏に一抹の寂しさを覚えるとき、季節が巡る月日の中で、「いのち」との別れがあったことをしみじみと思います。

 私がそのように思うのは、8月はお盆という行事があることに加え、私が初めて人との別れを経験したのが夏だったからでしょう。暑い盛りに病床にあった祖父が夏の終わりとともに亡くなったのは、私が小学校3年生のときでした。祖父の脈を取っておられたお医者様が、聴診器を外して深々と頭を下げられた光景と、何か不思議な気持ちがしたことは今でもはっきりと記憶に残っています。

 私はこのような経験によって、いのちというものを考えるようになりました。どなたもさまざまな場面で限りあるいのちの大切さを実感されたことがあると思います。しかしその一方で、危惧(きぐ)すべき現実があるということを見逃してはならないと思っています。その危惧すべき現実というのは、ある県の教育委員会の調査結果です。小学生では2割、高校生でも約1割以上の生徒さんが、人は死んでも生き返ると思っているという結果が出たというのです。さらに、1割近い小学生が、人間は死なないと思っていることでした。衝撃的な数字でした。

 私は、全てのいのちには必ず終わりが来ること、だから、いのちが大切なものであるということを小さなお子さんにも知ってもらいたいと常々思っています。

 日本の平均寿命は伸び続け、100歳以上の方が6万5千人を超える長寿の時代にあって、子どもさんが近しい人との別れの経験によって、いのちを思うことは少なくなっているかもしれません。だからこそ、時にはご家庭でも「いのち」について語り合う機会を持っていただければと考えています。家族が向き合って「いのち」を考えることで、今を生きていることへの感謝のこころ、いのちへの尊厳のこころが育まれるのではないかと思います。



はしらもと・めぐみ氏
京都市生まれ。京都市立芸術大卒。歌手名、藤田めぐみ。クラシックからジャズ、シャンソン、ラテンなど、幅広いジャンルでのライブ、ディナーショーなどのコンサートを展開。また、施設などを訪問して唱歌の心を伝える活動も続けている。同時に浄土真宗本願寺派の住職として寺の法務を執り行っている。