ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

地ビールに乾杯!

ACT―K主宰・精神科医 高木俊介




 京都の街の残暑厳しい中、朗報が飛び込んできた。「西陣麦酒」に待ちに待った醸造免許が降りたのだ。西陣麦酒は福祉就労や介護事業所を運営するNPO法人HEROESが、自閉症の人たちの働く場をつくろうと立ち上げたものだ。

 ビールは、日本ではラガービールという苦みが強いタイプ一本やりであるが、実は世界でいちばん種類の多いお酒である(多様性)。ワインや日本酒のように産地が限られない、世界中にあるお酒だ(普遍性)。今、日本でもその多様性を求めて、小さな醸造所で造るクラフトビール(地ビール)がブームになりつつある。そこに、障害者の就労の場作りを結びつけたのだ。

 実は、これには前史があって、最初に京都でそれを試みようとしたのが、私の「京都・一乗寺ブリュワリー」である。私は、まずは一流のブランドに障害者がかかわるようにしたいと思っているので、まだ障害者雇用はできていない。しかし、ビール造りは順調で専門の賞もいただき、市内に飲めるところもいくつかできた。これまでも西陣麦酒とはさまざまな協力関係にあり、今後も協働していく。

 私と同時期にビール造りを始めた作業所に、岡山の「真備竹林麦酒」がある。ここは当事者が醸造主任もしておいしいビールを地域に提供している。夏には真備町の公民館に、ビアホールができてにぎわう。

 近年は大手のビール会社も、クラフトビールに参入してきた。わが京都にも秋から大手によるクラフトビールの専門店ができる。大きな流れがきている。

 私たちはビール造りを通してさまざまな面で多くの方々との縁を大切にして、社会の中に多様性を受け入れる場所を拡げていきたい。

 ゆくゆくは京都産の麦を使ったビール造り、京都でのホップ栽培にも乗り出したい。明治時代に初めてビール用の麦を作った場所のひとつは、京都の亀岡だ。その歴史が蘇(よみがえ)るのだ。

 「仕事の場」を多様性と普遍性に開く。クラフトビールが、そのさきがけとなることを夢見る。



たかぎ・しゅんすけ氏
2つの病院で約20年勤務後、2004年、京都市中京区にACT-Kを設立。広島県生まれ。