ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

今年のノーベル平和賞

弁護士 尾藤 廣喜






 今年のノーベル平和賞は、スイス・ジュネーブに拠点を置く核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)が受賞した。受賞理由は、「核兵器禁止条約を達成した画期的な努力に対して」ということである。

 ICANは、広島・長崎の被爆(ひばく)者と常に連帯しながら、若者を中心として核の非人道性を訴える運動の裏方の役割を果たしてきた101カ国468のパートナー団体を持つNGO(非政府組織)である。日本では、世界一周の船旅で平和を訴える「ピースボート」に被爆者の「語り」を組織するなどの活動が良く知られている。

 私個人としては、正直言えば、故谷口稜曄(すみてる)さんに代表されるように、自分の悲惨な被爆体験を語る中で、核兵器の非人道性・違法性を強く訴え、「ノーモア・ヒバクシャ」の声を広げる運動の先頭に立ってきた日本原水爆禁止被害者団体協議会に受賞してほしかった。しかし、被爆の当事者ではなく、あえて核廃絶の運動を支える若い人たちの努力を高く評価したノーベル委員会の未来に期待する思いも十分に理解できるところであり、今回の受賞は心からうれしく思っている。

 私は、1986年に京都で提訴され、2000年11月に大阪高裁で勝訴し、原爆症認定の道を大きく広げた小西建男さんの原爆症認定訴訟を担当し、現在も原爆症認定の集団訴訟(ノーモア・ヒバクシャ訴訟)の原告代理人となっている。たとえ「ごまめの歯ぎしり」であっても、放射線の被害の実態と核廃絶を訴えたいと言うのが口ぐせだった小西さん。03年に亡くなられたが、この受賞を聞かれたら、どんなに喜んだことだろうと思う。

 北朝鮮の核開発は、当然非難すべきであるが、自らは核兵器禁止条約に参加せず、一方でアメリカの核の傘の下で、北朝鮮への圧力のみを主張しているわが国の政府は、ICANのノーベル平和賞受賞を契機に、是非核廃絶運動の先頭に立ってもらいたい。それが、唯一の核兵器使用による被爆国である政府の責任であるからだ。



びとう・ひろき氏 1970年京都大法学部卒。70年厚生省(当時)入省。75年京都弁護士会に弁護士登録し、生活保護訴訟をはじめ「貧困」問題について全国的な活動を行っている。