ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

生活扶助基準引き下げ

弁護士 尾藤 廣喜






 厚生労働省は、昨年12月、当初最大13・7%の生活扶助基準の引き下げ方針を示したが、関係審議会の生活保護基準部会がこれに否定的な意見を出すと、今度は、引き下げ幅を3年間で最大5%とするとの内容に変更した。そして、昨年12月22日、内閣はこの案を含む予算案を閣議決定した。

 この引き下げは、史上最大と言われた2013年から3年間にわたる平均6・5%、最大10%の引き下げに続くものであり、13年以前にも老齢加算の削減・廃止がなされ、その後には住宅扶助基準の引き下げ、冬季加算の減額がなされている。生活保護制度利用者からは、この相次ぐ引き下げに、「食費を削ってきたが、これ以上どこを削れというのか」「お風呂に入るのが月1回になった」「真冬に灯油が買えず風邪をひいた」などの切実な声が、次々と寄せられている。中でも、母子家庭(子ども一人)について月額約5000円、子育て世帯の児童養育加算が3歳未満児童について月額5000円を各減額するとの内容は、子どもの貧困対策の充実を掲げる安倍内閣の方針に真っ向から反した政策である。

 貧困が深刻化し、格差が広がっている今なぜこんなことが行われているのか。それは、現在厚生労働省が「下位十分の1の低所得層の消費水準と比較して」生活扶助基準が高ければ引き下げるという論理を採用しているからだ。日本では、生活保護バッシングなどの影響で、保護基準を下回る収入しかない人で生活保護利用している割合(捕捉率)は、15%から18%であると言われている。そんな状態でこういう手法をとれば、保護基準はどんどん下がっていくしかないことになる。生活扶助基準は、生活保護を利用している人だけの問題ではない。基礎年金額、最低賃金額にも影響するし、住民税の非課税限度額、就学援助額とも連動している。

 政府は、憲法25条が保障する健康で文化的な生活はどうあるべきかという視点から、今こそ基準の底上げをなすべきである。



びとう・ひろき氏 1970年京都大法学部卒。70年厚生省(当時)入省。75年京都弁護士会に弁護士登録し、生活保護訴訟をはじめ「貧困」問題について全国的な活動を行っている。