ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

孤独担当大臣

立命館大教授 津止正敏



  英国の「孤独担当大臣」が話題を呼んでいる。これは同国のメイ首相が今年1月に「社会の悲しい現実」に対処するポストとして内閣に新設したものだ。人口6500万人の英国で900万人以上という孤独の渦中にいる人への総合的支援を目的に担当大臣を設置したという。メイ首相が語った担当大臣の設置動機に、家族を介護する人たちの孤独の実情も指摘されていたことも大きく報道された。

 虐待や心中・殺人等々不幸な介護事件の背景に介護に掛かる過酷な負担と共に介護者の孤独が深く関与していることは、これまでも多くの識者が警鐘を鳴らしてきたところだ。介護する家族が抱える孤独は、近年の介護実態からも容易に推測できる。

 例えば「老老介護」。介護する人もされる人もともに「65歳以上」という世帯が半数を超え(54・7%)、ともに後期高齢者「75歳以上」という世帯も3割を超えたことが平成28年国民生活基礎調査(2017年6月公表)によって明らかにされた。ともに「60歳以上」というのであればなんと7割を超えている。もう在宅での介護実態は「老老介護」そのものであるといっていい。「単身介護」もある。介護は夫婦間介護が主流となり、その後に今度はひとり親を高齢期に達した息子や娘らが介護するという関係が一般化する。未婚の子どもたちも増えている。2040年には単身世帯が全世帯の4割を占めるというが、夫婦、親子ともに二人暮らしという「小さな家族」が圧倒する介護実態はもう始まっている。

 こうして介護者の孤独は社会問題として先鋭化する。私たちは介護する人を支援する仕組みを提言し運動を続けてきたのだが、その声はまだ永田町や霞?関には届いていない。「孤独担当大臣」を新設した英国では、介護する人を一人の権利主体として支援する根拠法(ケアラー法Carers Act)も早くから実現している。「ゆりかごから墓場まで」の伝統か。英国の社会や政治の高感度に私たちも習いたい。



つどめ・まさとし氏
1953年、鹿児島県生まれ。立命館大学教授。大学院社会学研究科修士課程修了。
京都市社会福祉協議会(地域福祉部長、ボランティア情報センター長)を経て、2001年から現職(立命館大産業社会学部教授)。2009年3月に「男性介護者と支援者の全国ネットワーク」を発足させ、事務局長を務める。著書に『ケアメンを生きる−男性介護者100万人へのエール−』『男性介護者白書―家族介護者支援への提言−』、『ボランティアの臨床社会学―あいまいさに潜む「未来」−』、『子育てサークル共同のチカラ−当事者性と地域福祉の視点から−』など。