ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

本当の救い

真宗大谷派僧侶
川村 妙慶



 今年の豪雪は、多くの場所に被害をもたらしています。皆さんの所はいかがでしたか? 報道から「吹雪で電車が立ち往生しました」というコメントを聞くたび、往生の使い方が違うのだけどなと思ってしまいます。

 世間で理解する立ち往生とは、その場に止まったり途中で行き詰まったりしたまま、処置のしようもなく、動きのとれないことをいいますね。つまり八方塞の最悪の状態をいいます。私たちも経験がないでしょうか? 「私はいったいどうしたらいいのか」と途方にくれたことはあるでしょう。私もそうでした。

 高校生の時に住職である父親を亡くし、兄が引きこもりになり、ご門徒は全員お寺から去っていきました。その中で私はどうしていいのかわからないときに、真宗の教えに出会いました。不安と絶望の暗い日々を送っていた私に師は、「川村!この身を生きよ!」とおっしゃったのです。それは、親鸞聖人が、『唯信鈔文意』で引用されている「往生すというは、不退転に住するをいう」から受けたお言葉でした。

 往生というのは「生に往く」と書きます。どれほど悲しかろうがつらかろうが、現実は変えられません。つらい問題がなくなることが救いではないのです。むしろ現状から退くことなく、今、生きている事実に立つこと。仏さまの智恵をいただくと、その苦しい現実から見えてくる世界があることをお教えくださいます。

 最悪だと思ったことが転じてくるのです。それが苦悩を生かして生きるという「往生を得た本当の救い」なのです。自然が私たちに何かをしてくれるのではありません。むしろ自然から、思い通りには生きられないことを学ぶことしかできないのです。後は、阿弥陀(あみだ)様の願いの中で安心して生きていけばいいのですね。そのことがわかった兄は、「その後の兎と亀」という創作童話を執筆したのです。

 「失敗したら、ここから生きたらいいんや!」と笑顔で現実を悠々と生きています。


かわむら みょうけい氏
アナウンサー、正念寺(上京区)坊守。メールで悩み相談受け付け。北九州市出身。