ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

聴くこころ

僧侶・歌手 柱本めぐみ




 「すべての人は、どんな時もそれぞれの人生を懸命に生きているんです」。テレビから聞こえてきたその言葉は、あたりまえのことなのですが、私の胸に強く響きました。そして「その人生にとって大切なことは、理解し合える人間関係なのです」と続けられたとき、ご縁あってお出会いした方々のことを思いました。

 人は多かれ少なかれ、さまざまな困難に遭遇し、それを乗り越え、時にはそれと向き合って生きていかねばならない時があります。そんな時に一番ありがたいのは、思いを理解し合い、また少しうれしいことがあれば分かち合える人がいることではないでしょうか。

 夫がホスピスに入院していたときのことでした。不安を抱えながら毎日を送る中で、唯一こころが休まるのは看護師さんや、同じ入院患者の家族の方々とお話しするときでした。話したところで何が解決するわけでもありませんし、私自身も答えを求めていたわけでもありませんでした。ただ、自分の思いをありのままに話したことが、聴き手になってくださった方のこころに、スッと溶けるように入っていくことを感じたとき、話した分だけこころが軽くなったことをはっきり覚えています。

 母がリハビリのために入院したときは、職員さんが声をかけて雑談してくださっていたので、母も寂しい思いをせずにすんだようでした。折しも看護師さんの実習期間と重なり、その最終日、母を担当してくださった学生さんが「今日でお別れなんです。いろいろお話しくださってありがとうございました。お元気でいてくださいね」とあいさつに来られ、名残惜しそうに握手して帰られました。そして病室を出たところで、涙を拭っておられたのでした。実習が終わってホッとしたこともあったことと思いますが、何度も同じことを繰り返す母の話を、ちゃんと聴いてくださったことが想像できました。聴くこころを持ったその方には、ぜひとも試験に合格して看護師さんになっていただきたいと思っています。



はしらもと・めぐみ氏
京都市生まれ。京都市立芸術大卒。歌手名、藤田めぐみ。クラシックからジャズ、シャンソン、ラテンなど、幅広いジャンルでのライブ、ディナーショーなどのコンサートを展開。また、施設などを訪問して唱歌の心を伝える活動も続けている。同時に浄土真宗本願寺派の住職として寺の法務を執り行っている。