ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

消える保養

ACT―K主宰・精神科医 高木俊介




 今年もまた「福八子どもキャンプ」の季節だ。福島の子どもたちに八丈島の自然の中で保養してもらうプロジェクト。今年で七回目だ。気がつけば、原発が放射能をまき散らしたあの事故から、もう7年になる。

 復興は進んでいる、放射能の危険や被害はないと、多くの人が言う。だが、国策である原発とその放射能の危険について、国は本当のことを言わないだろうと、これも多くの人が思っている。原発に故郷を奪われた人たちの不安と怒りは、今も変わらない。

 福八子どもキャンプにかかわった子どもたちは、この夏もまた八丈島に行きたいと言う。ボランティアたちは、子どもたちの笑顔と成長を見ることを楽しみにしている。最初幼い小学生だ?た子がたくましい青年となって、ボランティアの側にまわって新しい子どもの世話をする。キャンプを続けたい子どもたちが集まり、自分たちで話し合ってキャンプを計画する。ここには、地域と世代を超えた民主主義が育ちつつある。これこそ、私たちが最初に夢みたものだ。そして、この国の大地の汚染というひどすぎる代償を払いながらも、私たちが手にしたかけがえのないものなのだ。

 だが、あの震災と原発事故の記憶は、嘘(うそ)と詭弁(きべん)と無責任がまかり通るこの国で、どんどんと風化していっている。その陰で、放射能はジワジワと拡散を続け、健康への脅威はこれからであるのに、保障はどんどん縮小されていく。子どものために勇気をもって避難した人たちへの援助は、次々打ち切られていく。

 こうした背景のもとに、全国の保養の企画はどんどん減っている。今年は、当初の半分になってしまうだろうという。その多くは、資金難が理由だ。どこにも、公的な援助は皆無なのだ。身近なところで保養の話があれば、ぜひとも助けてあげてほしい。

 私たちの福八は「福八子ども」と検索すれば、子どもたちの顔が見えるホームページがある。ここでも、みなさんのおこころざしをお願いします、よろしく!



たかぎ・しゅんすけ氏
2つの病院で約20年勤務後、2004年、京都市中京区にACT-Kを設立。広島県生まれ。