ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

スウェーデンで民主主義を考える

弁護士 尾藤 廣喜






 6月10日から17日まで日弁連の調査で、スウェーデンを訪問しました。

 「若者の貧困」対策の調査が目的でしたが、最も印象的だったのは、民主主義とは何かということでした。スウェーデンでは、子どものころから、一人一人が主人公であり、社会は、市民の対話と連帯の中で作り出して行くものだということが徹底されています。政治に関心を持ち、参加することは、市民の当然の権利であり、義務でもあります。税制も、社会保障制度も、市民が議論し、作りあげていくものです。問題は、制度の議論以前の民主主義の到達度にあるのです。日本で私たちは、どんな「若者の貧困」対策が必要かを議論してきましたが、まず、採られるべき施策は、若者自身が政策決定に参加し、主体的に政策を決定することでした。

 この民主主義を支えるために、最も重視されていたのは、教育です。スウェーデンでは、就学前教育、義務教育さらに高等教育も全て無償。「どのような家に生まれたかによって受けることのできる教育に差があってはならない」という理念が徹底しています。奨学金も充実しており、これまで利用した人の割合は、国民の約5分の1。金額も、大学生で月額約14万3200円。そのうち、3分の2がローン、3分の1が給付金です。ローンの利率は、年0・13%ですから、返済の苦労はほとんどありません。

 社会保障については、何といっても「普遍主義」です。「誰もが負担者であり受益者である」という考え方で、教育、医療、年金そして介護という基礎的部分は公的責任で保障されています。日本のように、基礎年金が不十分なために、生活保護利用者世帯の54%が高齢世帯という事態はあり得ません。

 スウェーデンとは、歴史も社会的背景も違うのは事実ですが、いつまでも違いを嘆くのではなく、私たちも本気で「貧困と格差」の解消をめざすべきです。



びとう・ひろき氏 1970年京都大法学部卒。70年厚生省(当時)入省。75年京都弁護士会に弁護士登録し、生活保護訴訟をはじめ「貧困」問題について全国的な活動を行っている。