ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

我が事−当事者としての対話

関西大教授 所 めぐみ




 このコラムがご縁でつながった行政職員の方がおられる。仮にAさんとさせていただこう。私が書いたコラムを切り取りAさんに届けた地域の方がおられたようだ。それで助言がほしいと電話をいただいた。他の方々からも講演や研修等の依頼をいただくが、私の不器用さと仕事の忙しさからそのための時間をとることができず、お断りせざるを得ないことが続いている。

 Aさんはそうした私の事情を分かってくださったが、なかなか引き下がられない。国のいう地域共生社会の実現に向けた取り組みの推進、「我が事・丸ごと」の地域づくりと包括的な支援体制の整備。自分の市の課題は何か、誰とどう進めていくのか。一緒に進めていきたい人たちにどう伝えたらいいのか。Aさんは、地域の方々と、行政内での他部署への伝え方の両方に奮闘されていた。必死さといきいきとした様子に引き込まれてしまった。長い電話の後も、時折であるがメールでのやりとりが続いている。

 どう伝えたらいいのか。分かりやすい言葉や表現を使い、イラストも活用されたりしている。これではどうだろうと、案を送ってこられる。出張の移動中に、それを見ての感想や私自身もそこの伝え方を迷っているところだなどと短いお返事をする。すると、それに対するお返事とともに、近況が伝えられる。この間にAさん、ずいぶん地域の方々と話をされているようだ。多分ご本人も分かっておられると思う。どんなに分かりやすい言葉や表現、イラストを用いても、一方通行では伝わらない。思いや考えを聞こう、そして一緒に考えよう。こうした姿勢や関わりがない中では、住民にとっては丸投げされている感が払拭(ふっしょく)できない。

 最近いただいたメールに、地域の方からAさんに、地域の中にある無関心こそが地域の課題ではないか、みんなで話し合っていきたいと相談があったとのこと。Aさん、私の助言よりも大きな励みをいただきましたね。



ところ・めぐみ氏
1967年生まれ。同志社大文学部社会福祉学専攻卒。関西大人間健康学部教授。専門は地域福祉方法論、福祉教育。