京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
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●コラム「暖流」
「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。 優しさとは真宗大谷派僧侶 川村 妙慶
「優しさ」って何でしょうか? 思いやりでしょうか? 何でも人の言うことをきくことでしょうか?
例えば、誰かが悩んでいるとします。相手の気持ちに寄り添いたいと思い「その気持ち、わかるよ」と相手に伝える。これが優しさでしょうか? 親鸞聖人は「慈悲には、聖道と浄土の二つある」とおっしゃいます。聖道の慈悲というは、ものをあわれみ、かなしみ、はぐくむ心です。しかし、「どれだけかわいそうと思っても、あなたの思いで相手を助けることはできない」とおっしゃっています。 宮沢賢治さん(詩人)は、農業学校の教師でした。農家の方々にも指導をしていくのですが、どうしても気持ちが一つになれなかったそうです。教師の職を投げて農家の方々と生活していくのです。 しかしどれだけ苦労をともにしてもだめだったそうです。ある日、農家の方にそのことを投げかけると「先生は選んで私たちと暮らしている。私たちはこの仕事を選ぶことができなかったんだ。この苦しみは先生にはわからない」と言われたそうです。その時、宮沢さんは「他人の苦労をわかることはできないんだ」と痛感されたそうです。 私たちが引き受けた業の深さは、その人が身に受けて知っていることなのです。それを「あなたの気持ちわかる」なんて傲慢(ごうまん)なことは言えないのですね。 優しさとはテクニックではなく「体温で感じて」はじめてわかることなのです。 さて、新人俳優が初挑戦する役は刑事役が多いそうです。その刑事でも「やたら怒り飛ばす」役だそうです。机をひっくり返したり、わめき騒ぐ演技は誰でもできるそうです。 最も難しいのは「優しい、人情味あふれた刑事の役」、さまざまな経験がないとできないそうです。 つまり、自分の人生を知り、他人の悲しみを知ることができたとき、慈悲の優しい言葉がかけられるのですね。 かわむら みょうけい氏 アナウンサー、正念寺(上京区)坊守。メールで悩み相談受け付け。北九州市出身。
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