ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

こころの歌

僧侶・歌手 柱本めぐみ




 いつの間にか酷暑の夏もひとつの記憶となり、朝夕の冷え込みに深まりゆく秋を想(おも)う頃となりました。

 私はコンサートでは、可能な限り会場の皆さまとご一緒に歌うことにしていますが、この時期は「赤とんぼ」「紅葉」「里の秋」「旅愁」などが定番です。皆さまの歌声が会場に満ち、とても楽しそうに歌っておられるお顔を拝見しますと、歌があること、今日のいのちをいただいていることに、感謝の気持ちでいっぱいになります。中でも「紅葉」と「赤とんぼ」には特別な響きがあります。

 秋の日差しで明るいホスピスのサロン。私のミニコンサートには患者さまとご家族、そして看護師の方々が集まってくださいました。あたたかい拍手に迎えられてまず「紅葉」を歌いだしますと、皆さまが一斉に目頭を押さえられたのです。思いがけない涙に戸惑った私でしたが、やがて一緒に口ずさまれる方もあり、歌い終わったときは皆さまも私も笑顔でした。「赤とんぼ」を歌いますと、私の手を握って「ありがとう、ありがとう」と何度も繰り返された患者さまがおられました。その手は大きく、とても力強い手でした。

 コンサートの最後には一番後ろで車いすに座って聴いていた夫が花束を持ってきてくれました。看護師さんのご配慮でした。亡くなる2カ月ほど前のことでした。

 秋が巡りくるたびに思い出すこの日は、歌手としても僧侶としても私の新たな起点となりました。秋の歌を歌うたび、ホスピスのコンサートでお会いした方々、そして今に至るまでにいただいた数えきれないご縁、いのちのご縁のおかげで私の今日があることを思わずにはいられません。

 コンサートのあと、「私の思い出の歌が聴けてうれしかったです」というご感想をいただくことがあります。どなたも思い出の歌、こころの歌をお持ちのことと思いますが、今一度大きな声で歌ってみられてはいかがでしょう。きっと、今日を、そして明日を生きる力になると思います。



はしらもと・めぐみ氏
京都市生まれ。京都市立芸術大卒。歌手名、藤田めぐみ。クラシックからジャズ、シャンソン、ラテンなど、幅広いジャンルでのライブ、ディナーショーなどのコンサートを展開。また、施設などを訪問して唱歌の心を伝える活動も続けている。同時に浄土真宗本願寺派の住職として寺の法務を執り行っている。