ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

農業・福祉・ビール

ACT―K主宰・精神科医 高木俊介




 包みを開けると、とたんに爽やかなホップの香りが漂う。宮城県石巻市のイシノマキ・ファームで栽培されたホップが送られてきたのだ。ここは、農業を通じて多様な人々との共生社会をつくることを理念としたソーシャル・ファームである。多様な人々の中には、障害者やひきこもりの若者も、もちろん、いる。

 私が障害者雇用に結びつけることを目標にして、京都・一乗寺ブリュワリーというクラフトビールの醸造所を立ち上げたのが、7年前。いまだ障害者雇用という初期の目標には届いていないが、現在のクラフトビールブームを追い風にして、ようやく経営も安定しはじめている。その醸造所と西陣麦酒が共同して、「農福連携クラフトビール・プロジェクト」を発足した。西陣麦酒は、障害者施設で立ち上げたビール醸造所で、すでに自閉症の人たちがビール造りに携わっている。毎週金曜日の夜に西陣織会館の近くの醸造所併設パブで飲むことができる。

 農福連携とは、働く場としての農業と働き手としての障害者をつなぐことで、障害者の社会参加と農業の持続と発展を促すための事業である。厚生労働省と農林水産省の後押しで、予算もついている。現在、全国に広がりつつある。京都は、全国の中でも取り組みが進んでいる地域である。

 一乗寺ブリュワリーと西陣麦酒では、障害者が栽培に携わった原料を使ったビールをつくる。これが農福連携事業として認められたのだ。まずはプロトタイプ(原型)を作り、製品化できることを、農業を行っている全国の福祉関係者に広く知らせたい。今回、ビールの主原料である大麦は群馬県の障害者施設「菜の花」にお願いし、すでに収穫を終えた。

 今回の試みによって市場価値のあるクラフトビールが生み出せれば、京都府下の障害者施設に呼びかけて、ハーブなども含めた様々なビール原料を農福連携で生産していきたい。

 2020年、パラリンピックだ。農福連携ビールをそこに提供、とすでに夢は次へとふくらみはじめた。



たかぎ・しゅんすけ氏
2つの病院で約20年勤務後、2004年、京都市中京区にACT-Kを設立。広島県生まれ。