ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

老親の生きる姿から学ぶ

関西大教授 所 めぐみ


 その日は土曜日であったが、二つの出張の間をぬって「いきいきコーラスフェスティバル」の会場へ駆けつけた。80を過ぎている父が初めてちょうネクタイをして、母と並び舞台にたって歌っている。2人の姿がとても誇らしく、また2人が出会いにめぐまれて異郷である京都でお仲間ができている様子が何よりうれしかった。

 4年半前、私は岐阜に住む母との電話で、私のいる京都で暮らすことを考えてみないかと初めて話した。これまで病気で入院することがあっても互いの健康を気づかいながら2人で暮らしていた両親であったが、体力の衰えやできなくなったことが増えてきていた。長く続けていたボランティア活動にも区切りをつけていた。

 本人たちのそうした変化以上に気になっていたのがまちの変化だ。若い世代が多く移り住んだそのまちは、団地開発から40年以上がたち高齢化と人口減少が進んだ。2世帯住宅に建て替える家も見られるが、私の実家のように子どもたちは遠くに出て、高齢者のみで暮らしている世帯が少なくない。40年の間に培ったつながりはそこにあった。しかしかつての規模をかなり縮小して営業しているスーパー以外、コンビニや他の商店のほとんどは閉店。バスの本数も減ってしまった。これから先もここで暮らし続けられるのだろうか。介護が必要になった?時、仕事に追われている私が通うことはできない。それなら2人が元気なうちにこちらでの生活を始められたらいいのではないか。

 その電話から3年後。両親が京都へ越してきた。老いた犬を看(み)取り、自治会の役が終わってからというその言葉通りのタイミングである。

 今、老親を「呼び寄せる」人が増えているという。両親の思いより私の事情を優先したのではとの私の心配をはね返してくれるように、2人は新天地でチャレンジを続けている。たまに会えた時の母の手料理と2人との会話は、私に元気と学びを与えてくれている。



ところ・めぐみ氏
1967年生まれ。同志社大文学部社会福祉学専攻卒。関西大人間健康学部教授。専門は地域福祉方法論、福祉教育。