ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

真のリーダーとは

真宗大谷派僧侶
川村 妙慶



 私は、「同じ年の会」に参加しています。生まれた所も職業も全く違う、ただ同年という共通点で時間を共有する楽しい会です。会の皆さんは会社のリーダーが多く、日程を調整するのは大変なはずなのですが、気持ちよく日時が決まるのです。まず自分のスケジュールがダメだとか言う前に「〇〇さん、こんなすてきなお店をご紹介ありがとうございます」と幹事の気持ちになって対応される。結果よりも、過程をねぎらってくれるのです。そして不参加の場合は、「今回は残念なのですが、次回、必ず出席させてくださいね」と柔らかく対応されます。会ったときは、アホになりきり、笑顔があふれています。そこには何ひとつ権威は出ていません。ここにリーダーの本質をみたようです。

 さて、歎異抄の中で唯円が、師である親鸞聖人に思い切ってこう尋ねます。「念仏を申しても天におどり地におどる喜びの心が湧いていません」と。すると親鸞聖人は、「唯円房、そなたも同じ心であったか」とおっしゃったのです。普通であれば「そなたは今まで何を聞いておったのか?」と怒りさえも出るでしょう。しかし親鸞聖人は、彼の問いをご自身の問題として引きうけられたのです。そこには高い姿勢で弟子を導こうとする師の姿はありません。同じ煩悩にさいなまれている凡夫として、痛みを共感しながら救いを確かめ合っていこうとするご同行の姿があったのです。

 どんな人間も一生に一度の人生しかありません。ひとたび死の前にさらされたならば、一瞬に色あせてしまうのです。名利のために血相を変えて奔走し、愛欲と憎悪を燃やし続け、大切な人間関係を壊すことは寂しいことです。

 トップに立つ人間は、すごいことをアピールすることではないと思うのです。強くあるよりも、「私と同じなんだ」という感覚になっていただき、気がついたらこの人のために何かしたいという気持ちにならせていただく人なのかと感じたものです。


かわむら みょうけい氏
アナウンサー、正念寺(上京区)坊守。メールで悩み相談受け付け。北九州市出身。