京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
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●コラム「暖流」
「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。 自分らしく生きる
高齢者に対する医療は、この10年ほどの間に「本人らしい生き方」を支えるためにするのだという考え方が浸透してきた。ただ医療を受ける側にはまだ「おまかせ医療」の人たちが少なくない。 では、介護の方はどうか。介護は、医療と違って、もともと生活していくために身体を支えるという性質の行為だから、「本人らしい生き方」を支えるという考え方は、介護保険法第1条に示されている。人が尊厳を持って自立して生活できるように介護するという目的である。 では、介護の現場はそうなっているだろうか。 医療の現場よりはましであるが、はじめから目的を明示しているわりには、まだまだであろう。介護する側にも、手っ取り早くことを済ませればよいという人が少なくないこともあるが、介護を受ける側に「おまかせ介護」の方が多いことが問題である。 つまり「本人らしい生き方」を支えるための医療や介護がなかなか実現しない大きな原因の一つに、受ける側が専門家にすべて委ねるという態度があるとみられるのである。 自分の思いを殺して相手を立てるのは、日本人の美徳になる場合もあるであろうが、はじめから「自分」が無くて人任せなのは、決して幸せな生き方とはいえないであろう。 年を取ったら自分は何を楽しみ、いきがいにして生きたいのか。人さまのお世話になることが多くなるのだから、せめて自分は支えてもらってこういう生き方ができてうれしいということを、感謝の気持ちとともに相手に表したいものである。 認知症の方だって、したいようにさせてもらっている方は表情が生きている。それが支える側の大きな喜びになる。 「本人らしい生き方」は急にできるものではない。医療、介護を受ける身になる前から、どれだけ自分を大切にして生きてきたかが問われることになるだろう。 ほった つとむ氏 1934年宮津市生まれ。京都大法学部卒業。東京地検特捜部検事、最高検検事などを経て、91年に法務大臣官房長を最後に退職。現在、ボランティア活動の普及に取り組む。弁護士。著書に「おごるな上司!」「心の復活」「少年魂」など。
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