ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

「入管法改正」は何をもたらすか

弁護士 尾藤 廣喜






 昨年12月8日、「出入国管理法」改正法が成立した。この法律は、外国人労働者に「特定技能」という新しい在留資格を作ることを柱としている。「特定技能」は、一定の技能が必要な業務につく場合で、在留期間が最長通算で5年、家族の同伴を認めない「1号」と、熟達した技能を持つ人が業務につく場合で、期間の更新ができ、配偶者と子どもの同伴も認められる「2号」とに分けられている。しかし、この制度は、もともと低賃金であるために人手不足となっている日本の現状を打開するために、今度は外国人を低賃金で働かせたいという発想によるものである。このため、低賃金・虐待・長時間労働などで、まるで奴隷労働だと非難されている「外国人技能実習制度」は、抜本的改善策がとられないままとなっている。

 しかも、「特定技能」制度は、具体的な対象業種や分野、受け入れ規模・人数が未確定。求められる技能水準や日本語の能力、受け入れの理念も未定のまま。また、「1号」については、在留期間の制限、家族の同伴不可など、人間らしい生活がもともと保障されていないし、「2号」についても、長期間の滞在が予定されながら、日本語の獲得、住宅の確保などでわずかな支援が予定されているだけで、日本に定住して生活し、子どもを産み育て、万一の傷病、障害、高齢などに対応して「人間として尊厳のある生活を保障する制度」が見えてこない。これでは、働けなくなった際は、「使い捨て」同様の事態を招くことになりかねない。さらに、この新たな「低賃金労働者層」の移入が、低賃金で働くことを余儀なくされている日本の若者、非正規労働者、女性らとの新たな軋轢(あつれき)を生み出す懸念すらある。

 「入管法改正」が、「安上がりの労働力確保」という「資本の論理」に終始し、労働条件の改善、定住のための十分な支援、社会保障の拡充を伴わなければ、この国を収拾のつかない分断社会とすることになるだろう。



びとう・ひろき氏 1970年京都大法学部卒。70年厚生省(当時)入省。75年京都弁護士会に弁護士登録し、生活保護訴訟をはじめ「貧困」問題について全国的な活動を行っている。