ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

こころのアンテナ

僧侶・歌手 柱本めぐみ




 暖かな風や花の彩りに、こころ弾む季節がやってきました。私の寺の小さな境内でも、毎年春になると咲く花が開きました。そしてもう一つ、今年はチューリップが咲いています。何年ぶりかに球根を植えて芽が出るのを待ち、その芽が寒い冬を耐えて花が咲いたときは、自分でも驚くほど感動しました。それはしばらく忘れていた感覚でした。

 先月も同じような経験をしました。それは南丹市の中世木という集落を訪れたときのことでした。山間の集落は春まだ浅く、梅が咲き始めたところでしたが、その日の日差しはとてもやわらかく、空いっぱいに響く鳥のさえずりを聞きながら、地元の方に案内していただいて散策しました。小高い丘に静かに佇(たたず)む神社、その祠(ほこら)の裏に咲く小さな花、足元に見つけたふきのとう、そして杉木立の中に群生するミツマタの花。どれもが新鮮に映り、周りの景色に自然の大いなるいのちを感じ、ほんとうに幸せな気持ちに浸りました。

 知人が、自分は幼少期から自然と共に育ったことで、子どもなりにも山や川や草木に目に見えない何かを感じることができたと言われたことを思い出しました。山間の集落で私が感じたのは、まさに「目に見えない何か」だったのかもしれません。しかし、その景色の特別な働きかけがあったからではなく、私のアンテナが動いたからではないかと思っています。

 今の社会はテレビやインターネットなどで膨大な情報があふれています。きれいな景色もおいしいものも、居ながらにして知ることができます。しかし、さまざまなことを感じ取るための私たちのこころのアンテナは、容赦なく押し寄せる情報を受け止めるのに精いっぱいで、人として本来感じるべきことに対して、鈍感になっているように思えます。

 時は春。たまには歩速をゆるめて春の風に吹かれながら、アンテナをいつもと違った方に向けてみようと思います。身近にある感動、ほんとうの豊かさがキャッチできるかもしれません。



はしらもと・めぐみ氏
京都市生まれ。京都市立芸術大卒。歌手名、藤田めぐみ。クラシックからジャズ、シャンソン、ラテンなど、幅広いジャンルでのライブ、ディナーショーなどのコンサートを展開。また、施設などを訪問して唱歌の心を伝える活動も続けている。同時に浄土真宗本願寺派の住職として寺の法務を執り行っている。