ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

「共生」の時代の若者たち

ACT―K主宰・精神科医 高木俊介




 この頃、起業をめざす若い人たち、それをサポートする、やはり同じように若い人たちとのつきあいが増えている。

 私のやってきた地域精神医療の活動は、普通の医療機関を運営するのとはずいぶんと違う。医師が頂点にいて指揮をとるのと違い、それぞれのスタッフが病院という場を離れ、利用者の生活現場で自ら判断して責任を持って動かなければならない。そうでなければ、相手の生活の場に医療組織の見方を持ち込んで、治療のための生活管理になってしまう。そうならないように、ヒエラルキーがなく、おのおのが主体性を持って働くことが必要だ。

 このような組織づくりは言うは易しだが、医療の世界では難しい。10年以上続けるうちに、さまざまな組織運営上の矛盾が生まれ、志気の維持が難しくなる。

 そんな時に、ある若手のコンサルタントに出会った。自分たちの行き詰まりを、第2創業に挑む時だと位置づけ、3年に及んで日夜共に議論してきた。彼は自分の仕事を伴走者≠ニ位置づけ、大きな変革にも行動を共にしてくれた。その彼の信条は社会貢献する起業・企業の支援≠セった。彼を起点に、多くの若手起業家とその支援者たちと知りあうことができた。

 ある日、その彼らの何人かと歓談した時、なぜ今の時代に君たちのような若い人たちが「人生を楽しく、社会をよりよく」とまっすぐに言えるのかを聞いてみた。意外な答えだった。自分らは大変な不況に直面して働き口もない、将来も見通せない時代に社会に出て、唯一、何をするのも自由だという立場を得た。だから自分がよいと思うことをするしかないのです、と。

 才能や教育レベルなど、同世代の中でも彼らは恵まれているのだろう。しかし、その幸運を自分だけのものにしないという姿勢を、意志して持ち続けている。

 「共生」が今の社会の合言葉のようになって久しい。だがそれを自然体で実践するのは、難しい。そこをクリアする世代が育ちつつあるのかもしれない。



たかぎ・しゅんすけ氏
2つの病院で約20年勤務後、2004年、京都市中京区にACT-Kを設立。広島県生まれ。