ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

つなぐ先は誰がつくる

関西大教授 所 めぐみ


 「最近、夫は私よりも熱心に地域にでているのよ。社会的処方(Social Prescribing)にも取り組んでいるのよ」。英国での地域ケアなどについての調査に、もう何年も協力してくれている彼女は、コミュニティワークや若者支援を行うユースワークの実践者であり、大学での養成教育、研究にも長く携わってきた。彼女の伴侶は英国でジェネラルプラクシショナー(略してGP)と呼ばれる家庭医である。

 英国ではこの社会的処方が最近注目されていて、医師や研究者らによる全国的なネットワークも立ち上がっている。社会的処方は、体やメンタル面での不調や病気のために医療機関を受診した患者には治療のために薬が処方されるが、医療的な処方のみでは症状の改善が難しい場合や健康づくりが必要な場合、医療機関では提供できないものを 「処方」するものだという。例えば運動が必要な人には体を動かす活動に、精神的な病があり孤立もしている人には仲間や生きがいづくりにつながるような医療以外の活動などにつなぐ。「つなぐ」仕事は最近では「リンクワーカー」といわれる人らが担うようになってきている。

 家庭医を受診する患者の生活背景や地域の状況をみることで、よりより医療を行おうとする彼女の伴侶のような医師は少なくない。患者自身による健康管理やケア、自助や互助を「地域資源」の活用として促進することで患者や地域の健康と幸福力アップにつながることもある。

 成功している実践の報告がある一方で、いろいろな課題もあるようである。必ずしも保健医療を補完するために行ってきたのではない住民やボランティアらによる活動などが必ずしもマッチしないこともあるし、そもそもそうした活動が活発でない地域もある。支えとなる「資源」はいつでもどこでも必要な時にあるのか。地域に足りない精神障がい者の居場所づくりのボランティア活動にも関わりながら、彼の挑戦は続く。



ところ・めぐみ氏
1967年生まれ。同志社大文学部社会福祉学専攻卒。関西大人間健康学部教授。専門は地域福祉方法論、福祉教育。