ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

頼りになる年金にするために

弁護士 尾藤 廣喜




 6月3日、金融庁の金融審議会は、「人生100年時代」に備えて、計画的な資産形成を促す報告書をまとめた。報告書で特に注目されたのは、年金だけでは老後の資金を賄えず、95歳まで生きるためには夫婦で2000万円程度の貯えが必要であるとの試算が示されたことである。また、年金の額については、「調整」(「引き下げ」)が予想され、退職金も減少していく傾向が強まるとしている。その対策として、現役期(働ける時期)には、資金の積み立て、分散投資、退職時点では、使い道や資金計画の再検討、高齢期には、資産の計画的な取り崩し、資金計画の見直しなどを促している。

 しかし、この報告書は、方向性自体が誤っている。

 非正規の労働者が増え、賃金が上がらない今、積み立てや投資ができる人がどれくらいいるだろうか。また、年金の給付額が相次いで下げられるのに、消費税は引き上げられる。消費税増税分は「社会保障費に回す」という話はいったいどうなっているのだろうか。また、これまで、所得代替率(年金を受け取り始める時点での額と現役世代の手取り額の比較割合)が、モデル世帯で63%程度と言われていたのが、将来35〜37%になると言われては、多くの人たちが保険料を支払う意味がないと考えるのも当然のことだ。

 このため、金融担当大臣は、「受け取らない」とまで言い出し、大騒ぎになっている。

 むしろ今必要なことは、年金の給付額を引き上げ、最低保障年金を制度化するなどで、まず、制度の魅力を高めることだろう。また、そのための財源には、最低賃金の引き上げなどで賃金を増額し、働く人の取り分を増やし、保険料を負担できる収入とし、底上げを図ること。さらには、社会保険料の負担率が年収150万円から200万円の人が16・5%、5000万円から1億円の人が1・6%という不公正を是正することではないだろうか。



びとう・ひろき氏 1970年京都大法学部卒。70年厚生省(当時)入省。75年京都弁護士会に弁護士登録し、生活保護訴訟をはじめ「貧困」問題について全国的な活動を行っている。