ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

ひきこもりと私たち

ACT―K主宰・精神科医 高木俊介




 私たちの人生は、積極的に人と交わって社会的な活動をする時と、自分だけの世界にひきこもる時との繰り返しだ。悩みが大きいと、人との交わりはおっくうになる。そんな一日の終わりには、赤ん坊のように丸まって布団を被(かぶ)る。眠りが安らかだと、朝にはまた気力が戻っている。新しい自分がいるような気がする。

 神経をすり減らすのは、多くは人間関係だ。それは職場や学校であったり、時には家庭の中であったりする。そんな時、安心して一人になれる空間があって、悩みから離れて過ごす時間がほしい。そこで傷ついた心身を癒やし、また外に出て行く。生きていくためにはひきこもる時間が必要であり、大切な何かをもたらしてくれている。

 今の世の中は、生活が豊かで便利になった反面、社会に余裕がなくなり、人と違う振る舞いや考え方、感じ方が認められにくい。小さな失敗が許されない。ひきこもって過ごす時間をつくりにくい。ようやく安心してひきもって心身を癒やしても、ふたたび社会に出ようとする時には周囲の目が厳しい。そのような雰囲気が、「ひきこもり」と呼ばれる人を増やしている。

 最近のいくつかの事件によって、「ひきこもり」は特殊な人たちの病的な状態だと思われてしまった。だが、ひきこもるきっかけ、それからの過ごし方、回復やその後の人生は実にさまざまだ。長くひきこもったまま苦しんでいる人と、私たちが自分の傷を癒やすためにしばしばひきこもることの間に、実に多様な「ひきこもり」という状態がある。

 なくそうとしても、世の中と人生はひきこもるきっかけだらけだ。無理に引っ張り出そうとしたら、傷口がまた開いてしまう。

 ひきこもりの支援は、安心できる人間関係をそっと差し出し、ひきこもっている時間が少しでも豊かに過ごせるようにすることだ。そして、ひきこもりから戻ってきた人が歓迎祝福されるような社会でありたい。もしかしたら、大切な何かを社会に持ち帰ってくれているかもしれないのだ。



たかぎ・しゅんすけ氏
2つの病院で約20年勤務後、2004年、京都市中京区にACT-Kを設立。広島県生まれ。