ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

弱いロボット

立命館大教授 津止正敏



 後期から京都のある女子大で1回生演習を担当することになった。定年を迎えて少し時間の余裕ができたということもあるが、知人のSOSもあって引き受けることになった。テーマはあれこれ考え、「〈弱いロボット〉とともに〈ケア〉を考える」とした。テキストは豊橋技術科学大教授・岡田美智雄さんの『〈弱いロボット〉の思考』(講談社現代新書、2018年)だ。

 ゴミを拾えない〈ゴミ箱ロボット〉、一緒に手をつないで歩くだけの〈マコのて〉、たどたどしく話す〈トーキング・アリー〉等々ひとりでは何もできない〈弱いロボット〉がつくるコミュニケーションを通して、〈見るに見かねて〉〈ほうっておけずに〉手を差し出してしまう「ケアの衝動」について考えたい。そしてヒトの社会形成とケアの相関性について考えてみたい。そのために、テキストの輪読を行い、議論する。チームをつくり担当章を割り当てて、報告と論点提示を求める。そして提示された論点を元にグループワークを組織する。演習概要には、このように記した。

 私が初めて岡田さんの研究を知ったのは『弱いロボット』(医学書院、12年)。ロボット工学の研究者の手による作品が、医療介護を専門に扱っている出版社のそれも「シリーズケアをひらく」の一冊として世に出たのはどういうことなのだろうか。疑心暗鬼でページを捲ってみて、驚いた。ゴミを拾うことができずにまごまごしているゴミ箱ロボットをみて、保育園児たちが誰に言われるまでもなく率先してごみ拾いを手伝い始めた、というのだ。ヒトのケアする心と行為を引き出す弱いロボットの凄(すご)い力。以来、私はこのテーマを何度も話題にしてきたが、演習で取り上げるのは初めてである。

 相手は1回生。ロボットとケアの相関性といっても分かってもらえるだろうか、もしかしたら近未来に介護の世界を人工知能(AI)が席捲(せっけん)するなどと思い描いていやしないだろうか。少し不安だが、いまから後期の開講が楽しみである。

つどめ・まさとし氏
1953年、鹿児島県生まれ。立命館大学教授。大学院社会学研究科修士課程修了。
京都市社会福祉協議会(地域福祉部長、ボランティア情報センター長)を経て、2001年から現職(立命館大産業社会学部教授)。2009年3月に「男性介護者と支援者の全国ネットワーク」を発足させ、事務局長を務める。著書に『ケアメンを生きる−男性介護者100万人へのエール−』『男性介護者白書―家族介護者支援への提言−』、『ボランティアの臨床社会学―あいまいさに潜む「未来」−』、『子育てサークル共同のチカラ−当事者性と地域福祉の視点から−』など。