ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

「敬老の日」の不安

立命館大教授 津止正敏



 65歳以上の高齢者は3588万人、総人口に占める比率は28・4%となった。敬老の日の総務省広報だが、100歳を超える人も7万人という。長生きできる時代になった。

 でも、長寿を喜ぶ一方で、不安も喧伝される。認知症問題だ。厚労省の研究班の調査によれば、加齢とともに認知症の発症率は高まり、85歳以上の人では実に半数以上(男性47・1%、女性58・9%)が認知症患者という(「日本における認知症の高齢者人口の将来推計に関する研究」2012年)。認知症でない人のほうが少ないのだ。

 私も65歳、不安の兆候とは無縁ではない。目が霞(かす)み、聞こえも悪くなった。朝出かける時には妻からの財布・携帯・時計・免許証など忘れ物チェックが日課となって、ゼミが終わり帰宅の際には院生からも同じように注意される。そのうちこんなことがあったことすらも忘れてしまう日が来るに違いない。逆に私が介護する立場になるのかもしれない、と思う時もある。

 今に来る「その時」に備えておくべきことは? と自問する。介護サービスを取り込んだ生活を当たり前とすること。家族だけで抱え込むな。認知症を恥ずかしいと思うな。高齢になれば誰もが背負うに違いない症状だと思うこと。適切な介護や医療と出会えればそれなりに暮らせることも分かっている。認知症研究の第1人者長谷川和夫先生が自身認知症であることを告白して反響を呼んでいるが、私も見習いたい。隠さず臆せずカミングアウトこそ一番の備えだ。

 本人や介護者の会など、同じ立場にある仲間とも交流したい。ひとりじゃないと気付けば孤立しなくても済むはずだ。介護はつらくて大変だが、健康な時には気付きようもなかった希望や喜びもあるという多くの介護者の声にも学びたい。でも、きっと、ああでもないこうでもないと不安は尽きないだろうな。

 21日は世界アルツハイマーデー。今年も京都タワーがオレンジ色に染まった。

つどめ・まさとし氏
1953年、鹿児島県生まれ。立命館大学教授。大学院社会学研究科修士課程修了。
京都市社会福祉協議会(地域福祉部長、ボランティア情報センター長)を経て、2001年から現職(立命館大産業社会学部教授)。2009年3月に「男性介護者と支援者の全国ネットワーク」を発足させ、事務局長を務める。著書に『ケアメンを生きる−男性介護者100万人へのエール−』『男性介護者白書―家族介護者支援への提言−』、『ボランティアの臨床社会学―あいまいさに潜む「未来」−』、『子育てサークル共同のチカラ−当事者性と地域福祉の視点から−』など。