ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

週刊誌は人間関係に役立つ

もみじケ丘病院院長、精神科医 芝伸太郎



 精神的失調の大半は人間関係での躓(つまず<)きと関係しています。仕事がうまくいかない場合でも、子細に調べれば仕事そのものより職場の人間関係がネックになっていることが多いものです。

 人間関係をそつなくこなすために肝要なのは、自分と相手の間に適切な距離を保つことです。とは言っても適切な対人距離は相手によってさまざまですし、同じ相手でも間合いを詰めた方がよい時期と少し離れていた方がよい時期があります。適切な対人距離は自分と相手との元々の関係性やそれを取り巻く状況によって刻々と変化しているわけであって、その間合いをリアルタイムに正確に捉えるのは容易ではありません。

 天性の社交上手を除けば、適切な距離を見切るスキルを習得するには誰しも日々の訓練が必要です。ちなみに、深刻な事態を招きやすいのは間合いの開けすぎではなく詰めすぎによる失敗です。

 相手との適切な距離を見切るには、当事者である自分の視点や相手の視点だけでは不十分で、「自分が相手を見ていて、相手が自分を見ている」のを外から冷静に観察する第3の視点が求められます。自分の視点、相手の視点、第3の視点から作られる三角形の頂点の間を自在に行き来するフットワークで、取るべき間合いがつかめるのです。視点が2個から3個になると、平面に描かれた絵が3Dになって飛び出てくるくらいに情報量が一挙に増えて、相手との間合いを見切る精度は格段に上がります。

 必要に応じて第3の視点へ速やかに移動するには、普段から「自分には想像もできない角度から物事を見る他者」に自分を重ね合わせる練習が有効で、そのために最も手っ取り早いのは活字を読むことです。なかでも週刊誌はテレビや新聞にはない斬新な視点から事象に迫るのを旨とするメディアです。記事の信憑(ぴょう)性は措(お)くとして「そんな見方もあったのか」と読者を唸(うな)らせる週刊誌に親しめば、臨機応変な視点間移動に長(た)けて人間関係が上達すること請け合いです。

しば・しんたろう氏
京都大学医学部卒。兵庫県生まれ。
1991年もみじケ丘病院。2018年より現職。専門は気分障害の精神病理学。