ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

こころのエネルギー

僧侶・歌手 柱本めぐみ




 私の好きな歌の中に「色づく山の景色を、この先いったい何度見ることになるのだろう」という歌詞があります。最近、何となく共感を覚えてしまうこの歌詞は、「80歳になるのも、まだまだすてきな人生。私はきっと90歳を過ぎても生きるわ」と続きます。

 確かに、今の80歳台の方、90歳を過ぎてもとてもお元気な方がたくさんおられます。いろいろな趣味を楽しまれている方、お仲間とスポーツを続けられている方も多く、皆さまの元気の源はどこにあるのだろう、私が80歳まで生きたとしたら、あんなに活発でいられるだろうかと思うことがあります。

 先日も、私の隣で食事をされていた80過ぎの方が、本当に美味(おい)しそうに次々と召し上がり、その上おしゃべりは途切れることなく、よくこんなに口が動き続くものだと感心しながら傍観していました。すると、その方が「今が一番ええと思てますねん」と大声で笑われ、そのことばに、私は元気の所以(ゆえん)、強いこころのエネルギーを感じたのです。

 「皺(しわ)だらけやし、昔の面影もないほど肥えてしもたけど、そんなことはどうでもよろしいねん。若返りたいとも、あの頃はよかったとかなんて、ちっとも思いません。こうやってごはんが食べられて、お酒も飲めて80年も生きられていることは、ほんまにありがたい」

 80年という月日を生きてこられた方のお話は実に説得力があり、本当にその通りだと思いました。さまざまなご縁をいただいて、時を重ねることができて今日という日があるわけですから、「今が一番」であるはずです。しかし、時おり、もう少し若かったらと思ったり、「もしも、あの時こうしていたら…」と、悔やんでも仕方ないことを悔やんだりすることのある自分が恥ずかしく、また申し訳ない気持ちになりました。

 命のご縁をいただいている限りは、いいことも、そうでないこともあると思いますが、「今が一番」をこころのエネルギーにして、今日も感謝の1日を過ごしたいと思います。



はしらもと・めぐみ氏
京都市生まれ。京都市立芸術大卒。歌手名、藤田めぐみ。クラシックからジャズ、シャンソン、ラテンなど、幅広いジャンルでのライブ、ディナーショーなどのコンサートを展開。また、施設などを訪問して唱歌の心を伝える活動も続けている。同時に浄土真宗本願寺派の住職として寺の法務を執り行っている。